いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

代理店に困る!<5>(ボストン篇)<FILSONはアメリカ本土から直接買えなくなった>

代理店に困る!<4>(ボストン篇)の続きになります。

 

育児ノイローゼなどの自分がやや病的になってしまったときに、どのようにして立ち直るかというのは人それぞれだろう。心療内科などに行くのも一つだと思うけれど、僕はなんだか、昔から病院が嫌いだった。僕の心に起こっていることなのだから、僕の行動で治るはずだ、とまでは思っていないけれども、昔から、落ち込んだり、悩んだりすることの少ない僕のような人間は、よく言えば陽気、悪く言えば、まあ、お察しいただくとして、そんなタイプの僕の場合は、解決方法もちょっとバカげている。参考にする人はいないと思うけれど、ノイローゼになったときには思ってもみない出会いが自分を変えてくれることがある、ということを僕は学んだ。

 

僕の場合は、FILSONとの出会いだった。FILSONは服のブランドだけれども、この出会いは、アメリカとの出会いみたいな気持ちにもなった。今いる場所を少しでも愛せるように、そしてそれは僕にとってなんだか好ましいものとして、そう、ボストンという街に漂うなんだかイケすかない雰囲気、学歴を求めて世界中から人が集まり、どことなくエリート意識で繋がっているような世界観を破壊しかねないようなモノを僕が欲しがっていたのだろう。育児があるから実際のボストンから抜け出せない代わりに、僕は心の中で「森の生活」をはじめることになった。

 

困ったことがあった。

 

家に帰って、そんなアメリカの肉体労働者風なコスプレをしてみると、楽しかった。僕はアメリカ人になったような気がした。きっとこれは、日本に来た外国人が浅草あたりで作務衣とか足袋とかを買って楽しむような感じなんだろうけれど、僕は僕で立派な外国人だ。訪れた国の嫌な部分ばかり見つめるよりも、楽しむ方がいいに決まっている。コスプレでもいいじゃないか、それからちょくちょく買い足した。

 

僕のアメリカの労働者コスプレを、テキサス出身の友人に見せると、とても喜んでいた。彼女からは、今度は、テキサス風の服を着たらどうかと提案されたので、ウェスタンブーツとか欲しいと言ったら笑っていた。しかし、僕は真剣だった。ウェスタンブーツは高いので買えなかったけれど、ウェスタンな感じのシャツなどを買って、育児と家事しかしていないのにすっかりカウボーイになっていた。道を歩くと、おじさんたちからも声をかけられる、なんだか楽しい。

 

アメリカ労働者のコスプレにすっかりハマってしまって、元気になっていた。育児をするにしても、家事をするにしても、僕の心はすっかり山小屋だ。ノイローゼ気味だったことを忘れて、多少ワイルドな感じになりながら、ツバの大きい帽子をかぶって、長女のブランコを押していた。アメリカが好きになっていた。

 

FILSONの店員さんともすっかり仲良くなり、お店に行くとウィスキーを出されたりしていた。節約しなければならないアメリカ滞在だったけれど、節約しながらも、セールを狙って欲しいコスプレ衣装を揃えていった。しかし、そんな楽しいアメリカライフにも終わりがくる。日本でもこのコスプレは続けることができるだろうか。ああ、そうだった、そもそも、アメカジはコスプレみたいなものだった。僕は高校生の頃のように、アメカジしよう、いや、僕にとってはもうアメカジというよりも、コスプレなのだけれども、ノイローゼから解放してくれたこの服装で生きていこうと思った。なんだか大袈裟だ。

 

FILSONにはいろいろと思い出がある。ネットで買ったら二重会計になっていて、カスタマーセンターがポンコツすぎてなかなか対応してくれなかったこともある。しつこくメールや電話をして、払い戻しがされた。もちろん、FILSONの顧客はそんなこともレビューにガンガン書く。「服はタフだが、カスタマーセンターはタフじゃない」みたいな感じだ。また、ネットで買うと、新品のズボンなのに、後ろのポケットから空になった飴の袋が出てきたこともあった。おおらかな気持ちにさせてくれる。

 

僕にとって問題は日本に帰ってからも、FILSONは買えるのかということだった。調べてみると、FILSON JAPANというのが中目黒にできているようだった。服はできるだけ試着して書いたいと思っていたから、まずは安心だ。他にもセレクトショップなどでの扱いもある。それに、帰国してからも、アメリカのFILSONに注文することができる。試着はできないが、心強いカスタマーレビューを参照すればだいたいのサイズもわかる。レビューの大半は、「大きすぎる」「小さすぎる」というものだ。何着も持っているFILSONであれば手持ちからなんとなく分かる。

 

帰国してから、何度かアメリカのFILSONに注文した。日本にもフィルソンはあるけれども、日本では取り扱っていないものもあるし、何よりも、値段が違う。とくにセールのときは、アメリカから買った方が、送料や関税を含めてもとても安くなる。そもそも関税は、消費税程度なので、アメリカだと、というかこれは州によるけれど、高級品以外には衣服は税金がかかっていなかった気がする。そのため、ネットで掲示されている値段以上に税金がかかることはない。日本で買うと消費税がかかる。そう考えると、関税は消費税みたいなものなのだから、気にする必要はない。消費税がいやだからという理由で買い物をしない人はいないのだから。

 

海外からの個人輸入で楽しんでいたFILSONだけれど、今度は、円安になってしまったせいで、1.5倍くらいの金額になってしまった。日本のフィルソンで買うのもそう変わらなくなりつつある値段だ。でもやはりセールとなると、アメリカのセールだと種類も多く、割引率も高いものだから、ついついアメリカから個人輸入がしたくなる。しかし、それもできなくなってしまった。

 

やっと本題で申し訳ないけれども、日本正規代理店が管理をはじめたからなのか、契約が変わったからなのか、アメリカ本国のFILSONは日本から注文できなくなってしまった。これはよくある話らしく、たとえば、革靴で有名なALDENなども日本から本国のALDENに直接注文して買うことはできない。日本で正規に買うのであれば、正規代理店を通さなければならないのだ。ALDENのような有名なブランドは仕方ないにしても、アメリカコスプレ用のFILSONは見逃して欲しかった。日本の正規代理店のフィルソンももちろん素晴らしいし、中目黒のお店の雰囲気も好きだし、店員さんたちのフィルソン愛も十分伝わるお店で、僕は大好きだけれども、日本のフィルソンでは、優れたスタッフさんたちによる目利きがあるため、FILSONがたまにやらかすヘンテコな感じの物はあまり仕入れない。ヘンテコなやつは本国でもあまり売れないからセールで半額以下になっているから、僕のようなそもそもおしゃれでもなんでもない人間からすると、楽しくなる服だったりもする。そんな服が安く手に入らなくなってしまったのは残念でもある。

 

今度、アメリカに行くことがあれば、ヘンテコなFILSONを直接買うしかない。アメリカ行きがセール時期であることを願うばかりだ。

 

困ったことあった。