いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

セールに困る!(ボストン篇)<お得だから買うのか、欲しいから買うのか>

「夏が来るとアメリカのセールを思い出す」(長女1歳10ヶ月)

 

困ったことがあった。

 

日本にいたときというか、子供が生まれる前というか、20代、30代と僕は本以外のものに執着しなかった。とくに20代の一人暮らしの頃は家具も家電もほとんど持たず、机にしても椅子にしても、自分で作った物とか貰い物ばかりだった。服も貰い物ばかりだった。

 

当時はたくさん働いていたからお金がなかったわけでもない。そこそこあった。20代前半は海外移住しようと思っていたというのもあって、500万円を目指して貯金していた。そのお金は両親とも癌になったり、周囲のすすめもあって大学に入り直そうと思って使ってしまった。大学はすぐに辞めたから勿体無いことをした。

 

僕はお金に縁がないようだ。

 

お金を使うといえば、生活費と飲み屋と本だった。

 

そのあと一度目の結婚をしても、僕の生活はあまり変わらなかった。生活費と飲み代と本。それだけだった。

 

二度目の結婚で子供が産まれて、アメリカに行った。子供のためにいろいろな物を買うようになった。あとは糖尿病治療で激痩せしてしまったというのもあって、僕の服も買い直さないといけなくなった。

 

そんなときにふと気がついた。

 

セールってお買い得だということに。いまさら。

 

アメリカでセールを知った僕は、セールというのは最低でも50%オフになるものだと思い込んでしまった。70%オフもある。こんな値引きは、本でいえばB本と言われるBのハンコが押されている本くらいだ。

 

子供用品や服や靴などなんでもかんでもセールになる。そのうちセールで買わないと損しているような気がしてきた。

 

服でいえば、定番品のようなものはセールにはなかなかならない。前のシーズンの物だったり、定番品でも生地や色が違うものがセールになる。または、サイズが小さいものや大きいものがセールになる。余っているからなんだろう。

 

アメリカのセールはそれとは別に、急に、お店がセールしたくなったのか分からないけど、全品20%オフとか25%オフとかやることもある。さすが消費は娯楽だといち早く認めた国だ。

 

アメリカで消費をしていると、セール以外で買わなくなってしまう。頭の中にあるのは、消費の楽しさというよりも、損か得か、というものだった。どちらかというと、強迫神経症的な気持ちになってきた。

 

通常価格で買うのが怖くなってしまった。

 

そして、セールで買ったものですら、それからまたセールになってもっと安くなっているのを見るのが怖くなってしまった。

 

頭の中では損した! とかそんなことばかり考えるようになってしまった。

 

これはきっとよくないことだと思った。

 

僕の好きなブランドのFILSONもセールをする。とても安くてお得だ。そしてFILSONをアメリカのセールで買って、よせばいいのに、日本での値段と比べたりして、何万円得したとか思ったりもした。もう末期症状だ。

 

そしてあるとき気がついた。僕はお得というだけで、本当のところはあんまり欲しくないものまで買っているということに。

 

ちょっと欲しいというものを買わせるのがセールでもある。しかし、そのうち感覚が麻痺して、「お得」というものを「欲しい」と思うようになっている気がした。こんなことを続けていたら、欲しくもないものを「得」だと思うためだけに買い続けてしまうことになる。

 

本はそうじゃなかった。積読だとしても、探している本を、欲しい本を買っていた。買っても読まないかもしれない本だとしても、読みたいと思うから買っていた。先日も、日本の古本屋で読むか分からないけれども、見かけたら買おうと思っていた本を買ってしまった。古い本だし状態も悪いし、そしてちょっと高くても、「欲しい」ものを買ったのだから、変な気分にもならない。

 

だけど、アメリカのセールで僕はおかしくなった。得というだけで欲しくなる。

 

日本に帰国する前に、この感覚を治しておきたいと思った。セールでもなんでもないときにお店に行って「欲しい」と思う物を買おうと思った。定価で買った。「欲しい」ものを買うというのは消費としては健全だと思った。

 

そして僕はそのあと、セールを利用しなくなったのかといえば、そうじゃない。セールはセールだ。「欲しい」と思っても、「欲しい」度が足りなければ買わず、セールで売れ残っていたら買おうとか思うようになった。得だから買うというよりも、底知れない物欲を制御するためにセールという枠を利用する。でもまあ、結局は、セールだから買っているわけなんだけれども。

 

日本のセールは基本的に余り物だ。だから安心して余り物を買うことができる。もちろん、定価で買ったものが数ヶ月後に余り物としてセールになっていると、ちょっと寂しい気持ちもするけれども、それはそれだ。セールで「お得」だから「欲しくなる」という病的な状態に比べればまだ健全だろう。

 

「お得」だからセールを使う場合は、ちょっと試してみたい物や、消耗品がちょうどいいかもしれない。セールに自分の気持ちを乗っ取られてはいけないと思う。