「トコジラミと戦った日々のこと」
困ったことがあった。
数ヶ月前まで、テレビのニュースなどでトコジラミが話題になっていた。いまはあまりニュースで見かけなくなったけれど、トコジラミと戦ったことがある者からすれば、トコジラミとの戦いは、ちょっとやそっとで終焉するものではないことは経験上わかるから、きっと、ニュースとしての価値があまりなくなったというだけなのかもしれない。ニュースとしての価値がなくなったといって、トコジラミの流行がなくなるわけでもなく、また、トコジラミとの共生を多くの人が選んだということでもないだろう。いくら多様性といっても、トコジラミなど被害がある存在との共生は難しい。
僕は、いま、トコジラミに悩まされていない。いまの家ではトコジラミを見ていないし、以前、トコジラミと戦ったときの経験もあるため、子供たちの虫刺されや痒みの訴えに関しては、トコジラミ被害であるかどうかをすぐにチェックするようになったというのもあるし、もしトコジラミが出ても繁殖する前にすぐに気がつくように、我が家の壁紙や巾木等、サッシ周りは全部白にしている。トコジラミに悩まされたことがない人には分からないかもしれないが、トコジラミをすぐに発見するためには、何よりも、白い部屋である必要がある。黒い部屋ではトコジラミなのか壁紙の色なのか分からないのだ。
ちなみに、この白い部屋というのはトコジラミ以外にも役に立つ。蚊や小蝿、蟻などもすぐに発見できる。こういう虫たちはどうして黒いのだろうか。暗所に隠れやすいというのがあるからかもしれないが、我が家のように白を基調とした家では、この虫たちは目立つ。たまに子供が貼ったシールを虫かと思うことはあるけれども。あと、たぶん、白い虫はなかなか発見できないかもしれない。ウジなどはあのワーム感で気がつくかもしれないけれど、あ、シロアリ対策としては間違っているのかもしれないと、いま気がついた。
そんな家だからなのか、それとも、僕が空港の荷物チェックなどの人のように旅行のあとのカバンなども細かくチェックするからなのか、それとも子供たちが保育園からトコジラミを持ってきていないかいつもチェックしているからかは分からないが、いま、僕はトコジラミとは戦っていない。ただ、トコジラミと壮絶な戦いをした時期があり、その記憶が、先日までテレビで報道されていたトコジラミ被害の話を聞いていて思い出したというだけだ。
トコジラミは、昔は南京虫という名前で呼ばれていたと思うけれども、こういう害虫に対して特定の地名を含ませるのはよろしくないという考えからか、今では、トコジラミと呼ぶのが一般的らしい。学名などもあるのだろうけれども、それは知らない。成虫になると5mm程度で、空腹時は平べったい。吸血するとお腹が膨れている。ちなみに、空腹時のトコジラミを指で挟んで潰すのはなかなか難しいけれど、お腹が膨れている状態だと簡単に潰すことができる。殺生に抵抗がある人からすれば想像するのもいやかもしれないが、日々、トコジラミと戦っていた頃の僕は、多少猟奇的な気分になって、トコジラミを潰し続けていた。
トコジラミがいる場所は、寝具の周辺であることが多い。なぜなら、暗闇の中で動くトコジラミは、暗闇の中でじっと寝ている人間から吸血したいから、寝具の近くがいいのだろう。トコジラミはトコジラミで合理的に生きている。そして暗闇を好むトコジラミは、人間からすると、そこに住まないだろう、と思うようなところに頑張って住んでいる。僕がトコジラミが複数住んでいるのを発見したのは、子供のベッドのマットレスの下にあるすのこの裏、格子状に木材が垂直に交わるあたりだった。あとは、寝室の押し入れの襖の裏側の上部、そしてそこに隣接する鴨居、寝室とリビングを隔てた襖の鴨居の中にもいた。当時住んでいた部屋は、リビングと和室が仕切られているタイプの部屋だった。あとは、畳の縁にもいるにはいたけれども、思ったより少なかった。きっと、窮屈な畳から出てきて、マットレスを登って敷布団まで到達するのがトコジラミ的にも大変だったからかもしれない。またはお腹いっぱいになるとお腹がつかえて畳の間に入れないのかもしれない。カーテンの上にもいたけれども、これも遠いからか、あまりいなかった。そして、最後にこれがもっとも驚いたのだけれども、というか、トコジラミとの戦いのクライマックス、もうトコジラミのほとんどを絶滅させたと思っていたら、僕の足だけが噛まれる日々が続いて、ある日、僕の脛あたりに何か動いているような気がして起きてみると、僕のすね毛に絡まって動けなくなっているかわいいトコジラミがいたことから、僕の寝床の周辺を再度調べてみると、無印で買った編みのカゴに多くのトコジラミがいた。この編みカゴのトコジラミを穿り出したり、熱湯につけてみたり、最後には洗濯してみたりして駆除すると、トコジラミの被害は治った。僕とトコジラミの戦いはこうして終わった。
トコジラミに困る!<2>(主夫篇)に続きます。