いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

代理店に困る!<3>(ボストン篇)<育児をしながら追い詰められたこと>

代理店に困る!<2>(ボストン篇)の続きになります。

 

はじめての育児とはじめての長期海外滞在ということもあり、なんだか僕は追い詰められていた。社会から切り離されたような感覚が育児ノイローゼにはあるというが、まさにそんな感じだった。僕はもともとそんなに社会とのつながりを重視しないタチではあったけれども、糖尿病治療で大好きだった甘い物、甘い物を食べて読書をしているだけで僕は幸福を感じていたけれども、そんな甘い物も食事制限で食べられなくなり、当然、育児があるから飲みに行くわけにもいかず、といっても、支払い方法さえ知らない夜の街を出歩く気力もないまま、僕はノイローゼになっていた。乳児を抱えながら、窓の外を見ては、社会から隔絶した気持ちになり、アメリカの大自然を妄想していた。いっそ、大自然の中で暮らしたいと思うようになっていた。

 

困ったことがあった。

 

ボストンの北側には、そんな人間の生活から離れたいと思った人がいた場所がある。ソロー「森の生活」のことだ。僕はソローに憧れていたわけでもないのに、なぜだか、だんだんと、森などの自然の中で静かに暮らしたいと思うようになっていた。それはきっと、赤子の鳴き声から逃げたい、近隣の学生たちがたまに馬鹿騒ぎする音から逃れたいというのがあったのかもしれない。ひと昔前のアメリカの小説も自然との対峙みたいな物が多く、僕は結構好きだった。とにかく自然の中で一人で暮らしたいと、そんなことを思うようになった。

 

しかし、自然の中で一人で暮らすなんてできるわけもない。乳児もいるし、英語もできない、それに僕がアウトドア生活なんてできるはずもない、だって虫が嫌いなんだから、とかそんな堂々めぐりに陥る自問自答をしていた。妻から言われて、たまに散歩に出るようになった。駅の近くには、アウトドア洋品店があって、自然の中で暮らせない僕でも、アウトドア洋品を見ているときくらいはなんだかアウトドアしている気持ちになれるから好きだった。そして僕にとってのアウトドアはアウトドア洋品店で過ごすことになったわけだけれども、見ていると欲しくもなる。いくら欲しくなったといっても、日常で使わないようなものを買ってもしかたない。アウトドアに行けない僕でもアウトドア洋品を日常的に使うことでアウトドアしている気持ちくらいにはなれるじゃないかということから、日常でも使えるアウトドア洋品を物色するようになった。

 

最初に目をつけたのは、日本でもお馴染みのL.L.beansだった。これはボストンのあるマサチューセッツ州の隣のメイン州出身のアウトドアブランドということもあって、ボストン界隈でも身につけている人が多い。冬場になると、ビーンブーツという靴の下がゴムになっている靴を履いている人をよく見かける。ボストンの道路は歩道も含めて雪が多いし、ボコボコしているから、ビーンブーツが活躍する。こうして道行く人を見ていると、ボストンの気候からなのか、アウトドアブランドの服を着けている人たちが多いことに気がついた。

 

手始めにビーンブーツを直営店で買ってみた。隣の店は熊の木彫りが入り口に飾ってある店だ。なんだろう、このアメリカンな感じは、これこそアウトドアライフ、というか、もう自然の中で働く人みたいじゃないか、FILSONと書いてあったので、お店の名前をネットで調べてみた。

 

FILSONを知っている人からしてみれば何をいまさら、という話だと思うけれども、はじめてそのホームページをのぞいて見たときに、僕はちょっと驚いた。山や森、海などで働く男たちがいる。ワークマンとはまた違う感じの働く男たち。もちろん、女性もいる。女性も重機を動かしている。これはアウトドアというかなんというか、でもアウトドアであることは間違いないのだけれど、僕がちょっと想像していたキャンプなどのアウトドアとはちょっと違った世界があった。木を切り倒し、重そうな荷物を運んでいる。

 

商品のレビューを見てみると、ちょっと面白くなった。「タフだと言いながらも、丸太を何回か担いだら破れた」とかある。このときにはなかったレビューだけれど、日本に帰ってきてから見たレビューには、ある人が「裏地のウールがちくちくする」みたいに書いたと思いきや、その下に「繊細な肌触りが好きなら、ヴィクトリアズシークレットでも着てろ」みたいなやり取りもあって、なんだかそこにある別世界な感じが面白い。日本のネットなどで調べてみても、「牛に引きずられたけれど破れなかった」(服以外はどうだったのだろう)、「チェンソーが跳ね返ってきたが大丈夫だった」(服なのか、自分自身なのかは分からない)などといった、洋服に対してふさわしい言葉なのかは判断につきかねることを言われているブランドらしい。

 

もちろん気に入った。

 

代理店に困る!<4>(ボストン篇)に続きます。