いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

代理店に困る!<4>(ボストン篇)<FILSONと出会って、楽しくなった>

代理店に困る!<3>(ボストン篇)の続きです。

 

妻の仕事で渡米した僕は帯同者の悲哀のようなモノを感じていた。育児と家事以外にやることはなく。まあ、在宅の仕事はあるにはあったけれども、現場に行けない僕はどんどん仕事を人に譲ってしまい、最初の数ヶ月で抱えていた仕事は終わってしまった。それはそれで読書ができると思っていたけれど、育児と家事と食事制限で読書する気力もなくなってしまった。社会との関係が切れたみたいな気持ちになって、いっそ、大自然の中で暮らしていると思い込んでみたらどうだろうかと考えるようになって、アウトドア用品店で大自然で暮らしているつもりを味わっていた。このバーナーはなかなかいいなあ、とか買いもしないのに見ていた。

 

そんなとき、僕の気持ちと、アメリカンライフというのもあれだが、映画や小説で見るような、アメリカの自然と対峙している人たちが着用するような服を扱っているブランドを知ってしまった。FILSONだった。時代錯誤も甚だしいし、大自然の中で暮らしたり、仕事をしているのならまだしも、育児と家事しかしていない僕には全く不向きのブランドなのに、僕はとても惹かれてしまった。別世界に行けるような気がした。

 

困ったことがあった。

 

僕は木を切り倒す予定も、牛に引きずられる予定もない。家で育児と家事をしているだけだ。外出は買い物や乳児を図書館に連れて行って無料のイベントに連れて行くくらいだ。ベビーカーに引きずられる心配はない。しかし、なんだろうか、このワクワクした気持ちは、育児と家事しかしてないのに、大自然と格闘したような気持ちになれるかもしれないという、いわばコスプレのような気分はなんだろうか。きっとこうやってコスプレもハマるのかもしれない。

 

FILSONを買う前に、僕は、日常遣いもするということで、クーラーボックスで有名なYETIというブランドのソフトクーラーというバッグを買っていた。リュックサックのように背負うことができて、ごついジップで開閉できる。このソフトクーラーは、冷凍食品や生肉などを買うときに使っていた。なぜそんな物が必要かというと、僕らはボストンで車を持っていなかった。買い物は主に、カーといってもベビーカーで行っていた。また買い物の帰りに公園に寄って子供を遊ばせていたが、冷凍食品や生肉などを買ったときには公園に寄れなかった。夏場は、水遊びできる公園が多かった。水遊びが好きな長女はいつも遊びたがった。買い物前に公園に行けばいいかもしれないが、ボストンの日差しはなかなか強い。日焼け止めを塗らないと顔の出っ張った部分から日焼けしていく。公園の入り口に無料の日焼け止めもおいてある。あと、確か、子供に日焼け止めを塗らないのは州法か何かで禁じられていたような気もする。

 

公園で日差しを気にせずに遊ぶなら、日がやや落ちてきた午後がいい。その時間になると他にも子供がたくさんいたりする。知らない子供たちに混ざって発語ができない長女が一生懸命遊んでいる姿、ときに泣いていたりするけれども、そんな姿は育児をしていてもなんだかホッとする瞬間でもあった。それに普段は、ベビーカーに乗りたがらず、靴すら履きたがらない長女も、「公園に行くよ」というと、言葉がわかっているのかわかっていないのかは知らないが、ベビーカーにも乗ってくれた。

 

そんな長女の素敵な時間を確保するために、と言い訳しながら、僕のアウトドア趣味として、YETIのソフトクーラーを買って使っていた。アメリカは不思議なところで、ちょっと気になる鞄や、服、靴などをつけている人がいると、声をかける習慣がある。「それ、いいな、どこで買ったの?」とかそんな感じだ。このYETIのバッグはおじさんたちにウケが良かった。「シックスパックがたくさん入るな」とよく言われた。シックスパックというのは、ビールの6本パックのことだ。帰国してからはあまり使わないけれど、ビーンブーツと並び、僕の最初のアウトドアかぶれでもある。

 

ちなみに、このYETIは日本で買うと倍以上の値段になっていた。水筒もランチバックもYETIばかり買っていた。アメリカでもそこそこ高い方ではあるけれども、その保温性、密封性などを考えれば、そこまで高いわけでもないが、日本で買うと、性能の値段以上の何かがついているようにしか思えない。日本の大手アウトドア用品店に行くと、YETIは有名らしくて、ドーンとおいてあった。僕が使っている水筒の別のタイプの蓋が欲しかったのだが、売っていなかった。水筒自体がとても高くてびっくりした。

 

YETIのことはおいとこう、問題はFILSONだ。体重はベスト体重に戻って、そこそこ難いのいい状態になってはいたけれど、FILSONは敷居が高かった。何せ、入り口に木彫りの熊だ。それに長いこと、服に興味がなく、ユニクロばかり買っていた僕からすれば、シャツ一枚が100ドル以上するなどちょっと意味がわからなかった。FILSONはアメリカのワークマンみたいなものかと思いきや、値段はワークマンじゃなかった。その日は様子見だけして帰った。ガタイの大きな兄貴が笑顔で「またな」みたいに挨拶してくれた。僕は再びやってきた。たまたま日本領事館に用事があってその帰りに覗いてみたら、セールをやっていた。100ドルのシャツも40ドルくらいになっている。これなら買えると思った。そして、シャツなどを買った。

 

代理店に困る!<5>(ボストン篇)に続きます。