いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

代理店に困る!<1>(ボストン篇)<渡米と育児と家事とそして服>

「好きなブランドができて育児ノイローゼが治ったこと」(長女1歳6ヶ月)

 

困ったことがあった。

 

僕は元々、洋服などに興味がなかった。というと語弊がある。高校生くらいまでは人並みに興味があった。洋服や靴が好きだった弟の影響もあって、当時の流行りのアメカジを見よう見まねで買ったりするくらいには、興味があった。ジーンズは、弟に言われるまま、リーバイスを履いたり、リーを履いたり、ブーツは、レッドウィングが買えなかったから、ホーキンスを買ってみたらインソールがボール紙だからか、すぐに靴の中が気持ち悪くなって、バイト代を貯めてレッドウィングのエンジニアブーツを買うくらいには、洋服や靴に対して人並みに、といっても決してオシャレではなかったけれども、自分で好きだと思う服や靴くらいはあった。

 

18歳くらいから本に夢中になってしまった。生活費を稼ぐのも大変だったけれども、たくさん働いて生活費以外のお金はできるだけ書籍の購入にあてていた。すると自然と、洋服や靴などを買う余裕はなくなり、高校生の頃の服や、弟からもらった服を着続けていたけれども、どれもこれもボロボロになっていた。お金を貯めて買ったレッドウィングのエンジニアブーツもメンテナンスなんて知らなかったあの頃だ、ただただボロく、汚いブーツになっていた。靴はなくては困るというのもあって、アディダスかナイキのスニーカーのできるだけ安いのを買った。スニーカーは楽だけれども、一年くらいでボロくなってしまうのがなんとも勿体無い気がした。弟から買ったニューバランス加水分解を起こして履くと気持ち悪かったのを思い出す。まあ、僕の保管の仕方や使い方が悪かったわけなんだけれども。

 

20歳を越えたあたりの僕の格好は、ダメージジーンズというのがあるが、そんなカッコ良さげなものでもない。ただ至る所が擦り切れたりして穴が開き、脱ぎ履きする際に足を引っ掛けたりするものだから、余計穴が広がったりもした。股やお尻あたりも穴が空いていて、パンツが見えていた。子供の頃から、ちょっとした物は自分で縫っていたから、裁縫セットを買って、縫ってみるけれども、縫った箇所からちぎれていた。当時は当て布をするということまで考えが及ばなかった。毎回縫うのが面倒になって、安全ピンを何個も使って繋いでいたら、パンクが好きなのかと思われていた。髪型が派手な人たちに話しかけられたりした。好きなのは文庫本だったのに。

 

いつでもそんなにボロボロの服を着ていて、シャツも襟が破れていたりしたのを不憫に思ったのか、友人たちが服をくれた。そういえば、古本屋のおじさんからも服をもらったことがあった。「本ばかり買って、服は買わないんだからなあ」とおじさんは笑っていた。いま、あのおじさんと近い年齢になってみると、そんな本ばかり買って、身なりを気にしない若者がいたら、僕もきっと、服をあげるだろう。

 

そんなボロボロ服ばかりの生活が長く続いた。ある年齢になると、さすがにボロボロはよくないと思って、それに友人や古本屋のおじさんたちから服をもらってばかりもいられないということもあって、ユニクロなどで破れていなければいいという理由で服を買っていた。服などは破れていなければそれで十分だと思うようになっていた。靴も一年は持つ靴ならいいということで、足が臭くならない靴という条件だけで靴を買っていた。汚く見えなければなんでもいい、という状態だ。不思議なことに安すぎる靴は足が臭くなる。

 

それでも、30歳を超えたあたりからは、もう少し、身なりに気をつけた方がいいんじゃないか、と言われるようになった。お金にも多少余裕ができてきたから洋服を買うことはできるようになっていたけれども、10年以上、本のことばかり考えてきたのだから、いまさら服と言われても何を買えばいいのか分からないし、そもそも、服に対する趣味趣向がないのだから、わざわざ買いにいくという気持ちもない。服を買うのを楽しみにしていたのは、高校生の頃だった。その頃は、アメカジだった。あとお金がないから軍物などを上野で買っていた。僕の服に対する趣味などは90年代で止まっている。まあ、本に対する趣味も20世紀前半までなのだから、服の趣味の方がやや現代的かもしれない。

 

スーツなどをあまり着る仕事ではなかったけど、スーツは持っていた。問題は、カジュアル服だった。どれも同じように見える。買おうと思うと、高校生のときと同じようなものばかり買ってしまう。結局、上野のリーバイスのお店に行ってしまった。

 

服に興味を失って40歳になった。渡米だ。ユニクロのシャツにリーバイスジーンズでアメリカに行った。アメリカだからか、違和感は特になかった。こんな感じのおじさんは多い。僕はアメリカのおじさんになった。

 

代理店に困る!<2>(ボストン篇)に続きます。