いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

賃貸契約で困る!(ボストン篇)<アメリカの不動産屋さんとのすったもんだ>

「乳児を抱えて路頭に迷え」(長女6ヶ月)

 

困ったことがあった。

 

日本にいるとき、アメリカはすぐに訴えたりする文化だし、差別的な発言や暴力的な発言に関しては日本よりも風当たりが強いため、賃貸などの契約一つにしても、書面やメールなどの証拠が残るやりとりに関しては、相手もとても気をつけているだろうと思っていた。

 

実際には、いい加減だった。

 

日本との違いといえば、こじれて大変なことになりそうだ、と判断したときに、違う担当や部署からの謝罪や訂正が入るから、大きな問題にならないという感じがした。日本の方がささいなことでこじれてしまって、そのまま面倒なことになる気がする。アメリカ人は謝らないと日本ではよく言われているが、日本人の方が謝らない人が多い気もした。アメリカでは論理的に説明して相手に非があればだいたい謝罪がある。

 

ボストンで賃貸契約をするときには、とてもせかされる。現地を見て気に入ったら手付金を払って一日二日で契約するというのがよくあるみたいだけれども、そこでは、現地を見たその日に、家賃の半年分だかを払うことになった。

 

すぐに事務所に行って契約することになった。担当者からは支払いはクレジットカードでできると言われていたので問題ないと思っていたら、先月でクレジットカードの扱いをやめてしまったから扱えないということだった。よく考えたら、クレジットカードの限度額を越えているだろうから、どっちみち同じだったかもしれない。

 

アメリカの賃貸では小切手で支払うのが普通ということだったけれども、僕たちの小切手には信用がまだないのか分からないけれども、このときは使えなかったと思う。Paypal(ペイパル)なども試してみたけれども、これもダメだった。

 

そんなことから、僕らは現金で支払うということになった。もちろん、半年分の家賃を支払う現金はもっていなかった。

 

僕たちが口座を開いた銀行は大手の銀行ではなくて、妻の職場の関連の銀行。普段の生活なら、そこのカードでだいたい大丈夫だけれども、日本からの送金が少しややこしくなっているため、時間がかかってしまう。最低でも2週間、長くて3週間くらいかかりそうだということを話した。

 

とはいえ、そのアパートの状況から、入居できるのは一ヶ月後くらいということもあり、時間的な余裕はある。もし支払いが待てないということであれば、僕たちは違うところを探すから諦めるということももちろん話した。

 

次の日かその次の日あたりか、担当者が滞在先にやってきて、日本で言うところの支払い証明みたいなものや、日本での預金残高の控えを見せると、支払い能力があることが認められて、契約することになった。契約書を書いた。支払日だったか契約日は未記入でいいということで空白。契約書の控えはもちろんもらった。

 

10日くらいしても送金手続きが終わらなかった。僕はネットバンクのカードを日本に忘れてきたので、僕の預金は引き出せない。妻の預金を引き出そうにもATMだと1日で300ドルとか500ドルしか降ろせなかった。

 

担当者がせっついてきた。

 

「うちのハンガリーにいる息子に送金するのだって、すぐにできるのに、なぜ、あなたたちは日本からの送金に時間がかかるのか?」

 

僕たちが嘘をついているわけでもない。アメリカの大手の銀行であればすぐにできていたかもしれないが、日本の銀行から検索するコードには出てこない銀行らしくて確認やら何やらに時間がかかってると説明した。それにそもそも、約束の支払い期日までにはまだ時間がある。

 

数日後に妻が仕事で一時帰国することになっていた。間に合わなければ、そのときに日本で現金を下ろしてもってくると伝えた。

 

担当者の上司みたいなのから、変なメールがバンバンきた。

 

「契約書に記入されている支払い期日をすぎているのに、支払いがない!」

 

「契約書を見てください。支払い期日の日付は空白ですよ。それに約束した2週間から3週間の時間は経っていないし、入居日だってまだ先だ。私たちはすべて説明している」と僕が返信すると、

 

「この物件はいくらでも借り手がいるんだ。俺が指パッチンをすれば、いくらでも集まる。お前たちは、子供を抱えて路頭に迷え」と、鼻息が荒いメールが来た。

 

これはやばい不動産屋に違いないと思ったけれども、このメールは相手の弱味になるに違いないと、悪魔的な僕の直感が働いた。もし相手が契約破棄を一方的にしてきたり、僕らに不利益なことをしてきたら、アメリカの公平性を重んじる国民感情に訴えるぞ! とちょっと楽しくなっていた。

 

担当者が慌ててやってきた。泣いていた。

 

「上司がひどいメールを送ってしまって本当に申し訳ない。彼は私の客にだけああいう態度をとる。あなたたちのような行儀の良い人たちに対して、彼の態度はひどい。どうか許して欲しい」

 

妻が大金を懐にいれて緊張しながら帰国した。担当者が車で迎えにきて、事務所に行った。上司は僕らが来るとすぐに席を立ち、どこかに行ってしまった。担当者と他の社員の方が妙に優しくて、居心地が良かった。みんなあの上司が嫌いみたいなことを言っていた。

 

無事に契約することができた。

 

しばらくすると、リフォームで住むことができない数日間の家賃がまとめて支払った家賃分から引かれていることに気がついた。不動産屋ではなく、管理会社に説明を求めると、どこの不動産屋と契約したのか? と聞かれた。説明すると、ああ、あそこか、まったく、という感じで、次の家賃から割り引くとのことだった。

 

一年位経った頃、友人宅に行くためにウーバーを呼んだ。不動産屋の担当者が来た。お互いびっくりした。彼女はあの不動産屋を辞めたという。そして、あの不動産屋は潰れたとのことだった。なぜ潰れたのかは聞かなかった。不動産屋の上司が路頭に迷ったのか、それは分からない。