いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

職場で困る!(東京篇)<育児を理由にすると風当たりが強かった>

「育児を言い訳にする」(長女2週間)

 

産後は仕事をしないようにしていた。けれども、断りきれない仕事というのもある。フリーランスの仕事の場合はなおさらだ。

 

お世話になっていた方から、アメリカに行く前に一緒に仕事がしたいと言われた。断った。また誘われた。断った。3回目の誘いになった。三顧の礼みたい。しつこく誘われたのは、その方は高齢で、僕がアメリカに行っている間に自分が死んでしまうかもしれないから、最後に一緒に仕事がしたい、ということだった。

 

妻に相談する、しぶしぶOKだった。妻は、その人を恨んでやると言っていた。ちなみにその方は僕らの帰国後もピンピンしている。安心してください。

 

仕事といっても短いプロジェクト、2週間程度。産後という事情も話していたし、乳児の世話がメインであることなども条件として盛り込んでいた。家事も育児もしながら、ただ睡眠だけを削って仕事をする。ふらふらだった。

 

職場で準備不足を指摘された。

 

「ここに来るだけでギリギリなんです」

 

「それじゃ、困るなあ」

 

なんだか最初と約束が違う。その場で最年長の方、つまりは僕を三顧の礼で迎えたその方からの言葉。プロジェクトのメンバーにも僕の参加条件は言ってあるから助けを求めてみたけれども、ただ一言のフォローの言葉すらなく、助けてくれる人は誰一人いなかった。

 

これが働きながら育児をすることのつらさか、と思った。育児を言い訳にしているとしか思われない。もちろん、言い訳にしているんだけれども、なんだか釈然としないものを感じた。

 

「最初から言ってるじゃないですか。育児を中心にしますって」

 

帰り際に、育児先輩が話しかけてきた。

 

「うちは里帰り出産だったから、状況が分かってあげられなくてごめんね」

 

理解者がいるだけいいのかもしれないけど、年長の理解者はいつだって陰でこっそり応援してくれるだけだ。

 

「妻を産後うつにしたくないんですよ。産後クライシスもいやです」

 

育児先輩は産後クライシスが起きたそうだ。里帰り出産の夫側の話を聞くことがある。奥さんが実家から戻ってきたとき、夫は赤ちゃんの世話がままならなくてギクシャクする。奥さんは産後から毎日授乳やミルク、オムツなど経験した歴戦の強者になっているのに、夫は一兵卒の不甲斐なさ。産後で疲れ果てている奥さんからしたらイラつかせるためだけの存在だろう。

 

僕は職場では使えない人間ってことでいいや、と思った。もうこの人たちとは仕事をすることはないだろうし、帰国後も断ろう、育児が終わっても断ろう、と思った。仕事が一番大事だと思ってる人と、僕はこれらかの人生で一緒に仕事をしたくない。

 

その後も嫌味ばかり言われてつらかった。男性よりも年配の女性陣からの風当たりが強かった。

 

「私の友達が言っていたけど、育児なんてどんどんつらくなるんだから、赤ちゃんのうちに根を上げてどうするの?」

「子供なんてほっておけば育つものよ」

抱き癖がつくから抱っこなんてするな」

 

僕もどんどん感じが悪くなっていった。フリーランス同士の仕事ということもあり、他の仕事と掛け持ちで休む人もいたし、介護で休む人もいた。でも遅刻や欠席で責められるのは、育児を理由にする僕だけだった。

 

どうにか最後まで離脱せずに仕事を終えた。打ち上げの場でも僕は白い目で見られていた。仕事をなめてるとか高齢の女性に言われたりもした。

 

結局、最後の最後にキレてしまった。

 

「こんな愛のない場所になんて、僕は居たくない! あなたたちとはもう仕事をしないし、さよならだ!」

 

打ち上げがお通夜みたいな雰囲気になってしまった。若者たちに囲まれた。若者たちは男女関係なく、僕の態度を誉めてくれた。現場で何も言えなくてすみません、とか口々に謝ってくれた。若い人たちがこれから作っていく職場は状況の違う人に配慮するようになるのかもしれない。昭和のマジックワード「みんな一緒」「みんな大変」とか言わなくなるだろう。昭和の学校の先生は思えばそればっかりだった。

 

帰国後に、その現場にいた年配の女性の一人に会った。二年間、会ったらこう言ってやろう、ああ言ってやろう、とか思っていたのに、なんだか優しい感じで接してきたので何も言わなかった。一緒に仕事はしたくないけど、いつまで恨んでも仕方ない。

 

僕にできることといえば、愛のない職場に愛を差し出すくらいかもしれない。ムカつく人と戦うよりも困っている人を助けることの方が気持ち良く生きられる。ときには戦って道を切り開くことが人を助けることにもなるから、戦うことも必要だけれども。