いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

噛む力に困る!<上>(ボストン篇)<詰め物がとれる原因かもしれない>

「値段を聞いて、逃げ出した」(ボストン篇)

 

困ったことがあった。

 

2年に一度くらい歯の詰め物が取れる。いつも同じ箇所だ。歯の詰め物が取れるときは、だいたい忙しいときだったりもする。忙しいときや大変なときには、歯に違和感があることも多い気がする。

 

先日まで歯の治療をしていた。去年の年末あたりに家のことやら引っ越し準備やら仕事や育児にといつも以上に忙しい日々が続いた。すると、ちょうど2年くらい前に治療した歯の詰め物が取れた。思い出してみると、アメリカから帰国してすぐに詰め物が取れて、そして一年経って今度は名古屋に引っ越すときに詰め物が取れた。そして今度は、名古屋から引っ越すあたりで取れている。僕が忙しさを感じるのは引っ越しのときなのだろう。

 

詰め物が取れた箇所は虫歯が進行していたらしい。すぐに治療せずに数ヶ月ほったらかしてしまったからだろう。この歯医者さんは異常に丁寧で、治療前に話し合いが別室で行われ、その後に、口の中の状態などを細かに見る。なかなか治療してくれない。最初は話し合いと口の中の清掃ということになった。歯周病になると大変ですよー、みたいな説明を受け、あまり歯を磨かない僕などは、もしや歯周病になっているのでは? と思ったけれども、歯周病ではなかった。ちょっとお口の中が薄汚れて、歯石が溜まっている状態だった。

 

歯をあまり磨かないにもかかわらず、歯周病などになっていないのは、引越しのたびに詰め物が取れてしまって、2年以内に一度は歯医者さんに行っているからそれが検診みたいになって定期的な予防になっていたというのがあるかもしれない。詰め物の治療のときには歯石もとってもらっている。歯石除去のあとに口を濯いで血が出てくる感じがちょっと好き。

 

口の清掃と詰め物の治療で2ヶ月くらいかかった。口の清掃と治療は別の日に行われた。担当者も違っている。清掃専門の方がいる。そんなのはじめてだ。

 

どうにか治療が終わり、定期検診の話などをしていると、歯医者さんから、咬合力が強いため、寝る前などにマウスピースをしてみたらどうかと提案された。噛む力が強いということだ。

 

そう僕は噛む力が強い。これは子供ときから言われている。開かないものがあると噛む力を利用して開けてしまう。缶や瓶の蓋も、コルクも、スルメだって噛みちぎるし、安いステーキだっていけちゃうタイプだ。安いステーキはたまに僕でも食いちぎれないものがあったけど、そのときはガムのように何度も噛んでステーキソースをかけた白ごはんで飲み込んだりしていた。なぜあんなに肉を欲していたのだろうか、とも思う。680円くらいで固いお肉とおかわり無料のセット、近所にあってよかったと思っていた。

 

「噛む力の強さはどこで分かるんですか?」と聞いてみた。歯医者さんが嬉しそうに説明してくれた。

 

「噛む力が強い人は、奥歯の詰め物なども破損しやすいんですけれど、」と言って、僕の口の中を見せてくれた。

 

「ここの犬歯がありますよね。これは通常、尖っているのですが、ほら、尖っている部分がなくなって、エナメル層の下が見えてますよね。これは噛む力が強い人によくある状態なんです」

 

なぜだか誇らしい気持ちになってしまった。これは柔道家などの耳が餃子になるようなやつなんじゃないか? とか思ったからなんだけれども、犬歯が潰れているやつは、安いステーキを食えるやつということだ。

 

マウスピースを作って、寝るときだけつけることになった。

 

「歯軋りとかしないのに、マウスピースするの?」

 

と妻に聞かれたので、少し誇らしげに、咬合力の強さの話をした。で、妻に話しているときに思い出したことがあった。

 

長女が生まれてくるとき、つまり、妻が出産するとき、陣痛に苦しむ妻の横で僕も気張っていた。呼吸を一緒にやりながら掛け声もかけろと妻に言われて頑張って両立させながら、テニスボールを押し込み、空いている手でお腹をさすっていた。助産師さんたちの間では、僕は同業者ではないか、という噂がされていた。

 

その後、分娩室に一緒に行って、生まれ出る瞬間は声をかけるのも忘れ、とにかく僕も力をこめていた。僕が産むわけでもないのに。そして無事に長女が生まれた。

 

長女が生まれてから三週間くらいは何をしていたのかもあまり覚えていないけれど、魔の三週間が過ぎたあたりで、歯が痛いことに気がついた。奥歯全体が痛い。なかなか治らないので、歯医者さんに行くことにした。この歯医者さんはとてもいい歯医者さんなのだけれども、定期検診の予約をしていたのに忘れてしまって、それから気まずくなっていけなくなっていた。しかし、歯が痛い。気まずいけれども、定期検診の予約をすっぽかしたことを電話で謝ってから、治療の予約をした。

 

「虫歯などはとくにないですけれど、これ、力んだりしましたか?」

 

「妻の出産に立ち会って、力んでしまいました」

 

「おめでとうございます。きっと、力み過ぎたんですね。そのうち痛みは引くと思います」

 

出産で力み過ぎた名誉?の負傷だった。このときは、僕の咬合力の強さというよりも、出産という神秘的な場において、僕にも超人的な力が出たんじゃないかくらいに思っていた。その歯医者さんには渡米前にも見てもらって、異常がないことを確認してもらった。2年くらいなら大丈夫と太鼓判を押してもらった。

 

噛む力に困る!<下>(ボストン篇)に続きます。