いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

噛む力に困る!<下>(ボストン篇)<アメリカで歯医者に行った>

噛む力に困る!<上>(ボストン篇)の続きです。

 

出産や子育て、そして引越しなどのストレスが強い状態が続くと、僕の歯の詰め物が取れる。ストレスに弱いという自覚はあるし、普段と違うことを強制されると眠れなくなる。遠足前に眠れないという子ども時代あるあるは、いまでもささいなことでよく起こる。それがささいなことじゃない場合は、数週間、数ヶ月単位で起こってしまう。そんなとき、きっと、僕は歯を食いしばって寝ているのだろう。

 

日本でなら気軽に行ける歯医者も、アメリカではそうはいかない。ストレスの多い海外暮らしと育児の中で、僕は歯を食いしばって生きることになった。

 

困ったことがあった。

 

そして渡米。

 

アメリカで、知り合いもいない中、子育てするのは大変だった。引っ越しやら慣れない場所での生活というのは思ったよりも負担になるし、当時はまだ長女が自閉症という診断もされていなかったから、何時間も泣き止まない長女を抱えながら、どうなるんだろうと漠然とした不安の中で、育児ノイローゼになってしまった。赤ちゃんはそういうもんだよ、と言われると、まるで自分がダメだと言われているような気がしたものだ。赤ちゃんといっても個体差があるし、自閉症の赤ちゃんの泣き止まなさ、寝なさはちょっとレベルが違うということを、そのあと健常児の双子の世話をしてよく分かった。障害のある子の育児はやってみた人じゃないと分からないし、健常児との比較もどちらも育ててみないと分からないと思う。どのくらい大変かというと、通常、大変と言われる双子よりも、自閉症の長女の方が大変だった、といえば、少しは伝わるかもしれない。

 

育児の愚痴になってしまった。

 

そんな海外生活と育児ノイローゼの日々に、また歯が痛くなった。奥歯だけじゃなく、全体的に噛み合っていないような感じがした。痛みは出産のときほどじゃないけれど、違和感があった。

 

アメリカは保険がないと病院や歯医者が大変だとよく言われる。僕らは、妻の保険と同じ保険に加入していて、アメリカの友人いわく、そこそこいい保険らしい。日本にいるといい保険、悪い保険の区別があまりつかないが、アメリカ人にとっては保険の種類は結構大事らしい。彼らがいい仕事に就きたがるのも、「いい仕事だといい保険に入れる」という事情もあるようだった。収入によって入れる保険の選択肢が増えるのだろう。

 

そこそこいい保険ということを鵜呑みにして、妻が所属する機関の歯医者に行ってみた。保険証を提示して、治療の椅子に座って、口の中を見られた。特に虫歯はないという話になったら、受付の人が来た。

 

「この保険だと、歯医者の保険がないから全額負担になるけれどもいいのか?」

 

えっ、治療中にそれを言うのかと思った。口の中を見てもらったのだから、日本だったら、もう点数がついている。どうなるのかと思って聞いてみた。

 

「まだ全額負担の了承を得ていなかったから、ここまでの診察料金は、治療を希望する場合には請求する。やめるなら、何も請求しない」

 

安心した。虫歯はないという診察をしてもらったけれど、虫歯がないのであれば、またきっと、力み過ぎた系のトラブルだろうと思った。

 

「ちなみに治療だといくらくらいかかりますか?」

 

「300ドルはかかる」

 

節約中の僕らにはそんなお金はあったとしても出せない。ボストンでの生活はお金がかかるのだから。

 

「虫歯じゃないないなら、治療はいらない。口の中見てくれてありがとう」

 

と言って、そそくさとエレベーターに乗った。逃げ出した。エレベーターのドアの閉まる速度が遅いような気もした。エレベーターの前で歯医者さんと受付の方が笑顔で手を振ってくれていた。

 

いま考えれば、このときも咬合力が問題だったのだろう。出産のとき、そして渡米と育児はきっと僕の咬合力が割り増し状態になっていたに違いない。その後は、帰国時や、東京から名古屋への引っ越し、そして今回の名古屋からの引っ越しと、普段の生活が変わり大変になるときに、詰め物がとれている。咬合力は詰め物を破壊する。

 

僕の問題は咬合力だった。大変な時に歯を食いしばりすぎて、安いステーキどころか、自分の歯を押し潰そうとしてしまっていた。強い力というのが時に自らを滅ぼすというやつかもしれない。なんか漫画みたい。

 

詰め物が取れるのも、奥歯が痛くなるのも、咬合力の問題ということが分かった。これの対策はマウスピースになるらしい。マウスピースができたので、寝る時に装着してみた。なんだか奇妙な感じがするけれど、やがて慣れるのだろう。しかし、ここでもう一つ問題が出てきた。僕はあまり歯を磨かない。で、その磨いていない状態のままマウスピースをつけて寝てもいいのだろうか? 夜に歯を磨いて寝なさいというのを子供たちに言っているけれども、僕はしていない。説明が丁寧な歯医者さんも、夜に歯を磨いてからマウスピースをつけてください、と言っていなかった。夜に歯を磨くのは当たり前だから言わなかったのか、それとも、マウスピースは歯を磨いてなくてもいいのか、その辺はまだ分からない。