いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

咳に困る!(ボストン篇)<咳止めと危険な遊び>

「みんな咳が止まらなかった」(長女1歳2ヶ月)

 

困ったことがあった。

 

渡米してはじめて迎えた冬に体調を崩してしまった。糖尿病の治療で体重が激減してしまったり、育児ノイローゼ気味になっていたりもして、体力も気力も落ちていた時期を脱して、ちょっと元気になってきた、と思ったら、咳が止まらなくなった。

 

熱もなく、関節の痛みもない、だけど咳だけが止まらなかった。そのときに買った大量のマスクはその翌年の新型コロナの流行で役にたったが、当時はただただ咳がつらかった。

 

あの咳はなんだったのだろう。

 

2ヶ月近く咳が止まらなかった。家族の中で僕だけがずっと咳き込んでいた。1ヶ月くらいで少しマシになったけれど、寝るときにも咳が止まらなくなったり、寝ているときにも咳が出てしまって起きたりと、日々、育児で疲れきっているのに、咳で苦しんでいた。

 

アメリカの友人の二、三人からも2ヶ月近い咳に苦しんでいるという話を聞いた。医者に行って薬をもらっても治らないということだった。ハーブティーを飲んだり、咳止めを飲んだりして、咳と共存しているとのことだった。

 

アメリカの咳止めをたくさん試してみた。

 

僕はあまり咳止めを飲んだことがなかった。風邪をひいたらコンコンと眠るだけだった。12時間くらい寝て、ケロリとしていることも多い。育児であまり眠れないから、この回復の仕方は難しいというのもあるけど、咳が酷すぎて眠ることすらできなかった。

 

妻と長女とは一緒の部屋で寝ていた。僕の咳で2人を起こしてしまうこともあったので、別室で眠ることも増えていた。アメリカの部屋は全館暖房なので、どこの部屋もそこそこ暖かい。

 

そう、どの部屋も暖かいのだけれども、うっすらと寒気もする。どの部屋も隙間風が入ってきていた。隙間風というのは予想以上に寒い。そのことに気が付くのが遅かった。

 

寝室では、僕は窓側に寝ていた。窓側が寒いというのもあって、一番寒い場所には頑強な人間がいけばいいということで、自分の体を過信して、身を呈するマッチョな男みたいな感じで寒いところに行ったんだった。咳がひどい時にはあまり気がつかなかったけど、隙間風が厳しくなると僕は咳き込んでいた。

 

原因と結果に気がつくのに3ヶ月ほどかかってしまった。体調が悪いときは、頭の動きもおかしくなる。

 

隙間風をどうしようかと思っているうちに、寒さも緩やかになって隙間風をどうこうしようということもなくなってきていた。僕の咳も治まっていた。

 

根本的な対処をせずに、アメリカの咳止めばかり飲んでいたわけだけれども、この咳止めもすごかった。

 

いろいろと試したところ、すさまじい効き目のものがあった。

 

薬なのかなんなのか分からないけど、その咳止めを飲むと、喉が痺れたような状態になって咳が止まる。喉の痺れの方がひどいのか、咳の方がひどいのか分からないようになって、咳は止まる。咳は止まるけど、喉が数時間ジンジンする。

 

咳よりはまだ眠れる気がした。

 

ハーブティーを飲んで、ハーブティーでうがいをする。そして、喉を痺れさせる薬を飲む。そんなことを1ヶ月以上続けたと思う。

 

咳が止まってきた頃、ハーブティはすぐにやめたのに、その咳止めが欲しくなることがあった。あのジンジンと痺れる感じが好きだった。

 

子供の頃、自転車で転んでコンクリートの道路に頭を打ち付けたとき、歯がゆらゆらとしたような感じがして頭がジンジンと痺れるような感覚になったことがあった。僕はそれが気に入ってしまい、何度かわざと自転車で転んで道路に頭を打ち付けるということをやっていた。

 

いま考えればとても危険な行為だろう。

 

周囲で見ていた人が僕の異変に気がついて、この危険な行為は止められてしまった。

 

「何やっているの?」

 

「歯がゆらゆら揺れて、じんじんするのが楽しいんです」

 

「そんなことやっちゃだめだ」

 

その後のことはあまり覚えていないが、家までその人がついてきて、親に報告していたと思う。母はあまりそういうことを気にするタイプではないので、何バカなことをやって、みたいに笑っていたと思う。あまり覚えていないのは、何度も頭を打ち付けたからかもしれない。

 

その後も、たまにコンクリートの道路に頭を打ち付けることがあった。でも、それは何度もというわけでもなく、自転車でできるだけぎりぎりな感じで曲がったりして、わざとといえばわざとかもしれないけど、僕にとってはわざとではない気持ちで転んで頭を打ち付けて、歯をゆらしてじんじんさせていた。いつの頃からかやめてしまったけれども、はじめてアルコールで酩酊したときには同じ気持ちになった。そのときは転びもせず、ただ道路に横になって縁石を枕にしてしばらく横になって、子供の頃を思い出していた。

 

咳によって喉がじんじんしたときに、子供の頃と初めてアルコールで酩酊した頃を思い出していた。喉がじんじんくらいならいいんじゃないかとか思いながら、僕は、あの危険なじんじんの思い出に浸っていた。