オートロックに困る!(ボストン篇)<セキュリティの考え方が違うのかも知れない>
「中に用事があるなら適当に押せばいい」(長女1歳2ヶ月)
困ったことがあった。
ボストンで僕らが住んでいたアパートメントはボロかった。階段はボロボロだし、部屋の中には隙間風が入る。廊下のカーペットも捲れていたりする。築何年なのか表記する習慣がボストンにはなかったので、このアパートメントがどのくらい前から存在するのか分からない。
とはいえ、目の前の綺麗なアパートメントよりも、僕はこのボロいアパートメントが気に入っていた。住民がすぐに入れ替わるボストンではアパートを綺麗に使おうとする人もいないし、僕らだって、部屋の壁の下の方が加湿のしすぎで壁が結露してボロボロと崩れてきたけど、これといった修繕もしなかった。管理人さんに聞くと、白なら何を塗ってもいいということだった。白ペンキが地層のようにある壁が僕は好きだった。
そんなボロいアパートメントなのに、オートロックだ。アメリカの場合はどこもオートロックかもしれないけれど、このアパートはきちんとしたオートロックで、アパートの正面入り口のドアが二重になってる。最初の扉は普通に開くが、内扉の部分はオートロック。日本のマンションのようだ。
入り口はもちろんボロい。それでもオートロックだ。小さなロビーには各部屋とつながるインターホン用のボタンが並んでいる。
オートロックだから、もちろん、部屋から解錠することもできる。
僕らの部屋にもインターホンがあった。インターホンの下にはボタンが二つあって、一つは話す用のボタン。ボタンを押し続けて話すタイプ。もう一つのボタンは解錠するためのボタンだ。
配達などの際にインターホンが鳴って、解錠するように言われることがある。ボストンの僕らの地域は置き配が前提になっているけれど、オートロックの扉の中に、つまり、一階の廊下に荷物をどんどん置いていくため、オートロックの扉が解錠されなければならない。
僕らの部屋のインターホンは調子が悪い。話していても途切れるし、解錠もできないことがある。
管理人さんに聞いてみた。彼はしょうがない奴だぜ全くみたいな感じで、インターホンの操作が分かっていないだけなのに故障だと思い込んでるんだろって感じで、部屋までやってきた。
「話すなら、このボタンを押し続けなくちゃいけない。解錠するのはこっちのボタンだ。分かったか?」
「うん、それは分かっているけど、押し続けていても切れてしまうし、解錠もできることもあればできないこともある」
前に、なかなか解錠ができずにいたら、配達の人がイラついていたことがあった。僕は急いで下に降りてみると、一階の廊下に荷物があったことがある。解錠もしていないのに、部屋のドアがノックされて荷物が届いたこともある。なぜだろう。
管理人さんは僕の言葉を信用してくれない。試してみることを提案した。管理人さんがインターホンの前で妻に操作を教える。僕は外に出て、一階のインターホンを押して、話して、解錠してもらう役だ。
一階からインターホンを押した。なんだか雑音がひどい、途切れ途切れだ。妻に電話した。途切れ途切れで何を言っているのか分からない。解錠のボタンを押してもらえる? とかそんなことを言うと、すでに管理人さんは何度も解錠ボタンを押していたそうだ。
つまり、僕らの部屋のインターホンは壊れていた。
どうするんだろう、と思っていると、管理人さんが降りてきた。
「壊れているけど、問題ないよ。いまはみんなモバイルもあるんだし」
「でも、解錠できないと困るんだ」
「そんなこと気にしてたのか?」
と、部屋番号が並んでいるインターホンの前に管理人さんが立った。
手のひらで、全部の部屋のボタンをバーっと押した。するとしばらくして解錠された。
「みんなこうやってるよ。誰かが開けるさ」
謎が解けた。インターホンが鳴って出てみても、何の応答もないこともあったし、僕ら宛の荷物が解錠していない僕らに届いたりもしていたのはこういうことだったのだ。なんて大らかなシステムなのだろうか。
オートロックの意味があるのかどうかと聞かれたらちょっと困るところだけれど、ここのオートロックは適当に部屋のボタンを押せば誰かが開けてくれるというシステムだった。
そういえば、一階に住んでいたベトナム人から夜中の3時頃にメッセージがあった。もちろん寝ていたから気が付かなかったんだけど、オートロックを開けてほしいというものだった。さすがに夜中の3時に全部屋を鳴らすわけにもいかなかったのだろう。ベトナムの彼に翌日メッセージをすると、タバコを吸いに外に出たら鍵を忘れていたということだった。同居人を電話で起こして開けてもらったそうだ。