いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

レンガに困る!<下>(ボストン篇)<僕は頼りない壁だし、レンガも頼りない壁だった>

レンガに困る!<上>(ボストン篇)の続きになります。

 

寝ようとすると咳が止まらなかった。副交感神経とかなんとかかんとかなのかとか思ってみたものの、冷たい風が吹くと咳が出るというのは、風が吹けば桶屋が儲かるというほどのバタフライエフェクトでもなくて、わかりやすい作用反作用みたいなものだった。隙間風の代表格は窓だろうと、僕は窓を塞いだ。それでも、

 

困ったことがあった。

 

窓からの隙間風はなくなった。でも寝る時にヒューっと継続的に冷たい空気が僕の喉を刺激する。咳は止まらない。

 

ちなみに、僕は有害でない男らしさを追い求めるところがあって、妻と長女を窓際や外壁側に寝させるようなことはしない。窓側は夏は暑いし冬は寒いものだ、そんな場所は、日頃、自分の体の丈夫さを自慢している僕がいる場所であると主張し、今でも窓側は僕の寝場所だ。

 

隙間風に当てられて、ゴホゴホと咳をし続ける僕を心配した妻が場所を変わろうかと提案してきた。ここで交換してもらったら楽になるのだろうけど、妻が風邪をひいてしまうかもしれない。やはりここは僕が家族の壁になるべきだと主張して、ゴホゴホやっていた。頼りない壁だ。

 

そう、頼りない壁だった。

 

窓をパックしたにもかかわらず隙間風が吹いているのは、壁からだった。まさか、壁に穴が開いているのか? と思った。

 

壁側には家具が置いてある。家具の下から隙間風が来ているような気がした。家具をどかしてみると、結露のようになって、壁にカビが生えていた。そして床と壁の間に、10cm幅くらいの日本でいえば巾木みたいなものとして、ゴムの板が張り付いていた。結露とカビの影響もあって、ゴムの板もベロンベロンになっていた。

 

恐る恐るゴムの板を剥がしてみた。

 

何層にも塗られたペンキとボロボロになった壁があった。とくに床と面しているところはボロボロだった。もししかしたら、外が覗けるのではないか? とか思っていた。もちろん、そこから隙間風が吹き込んでいた。

 

日本で暮らす時に、パテを常備している人は少ないかもしれない。ボロいアパートや古い家などに住んでいない人は、パテを常備するという発想はないかもしれない。しかし、アメリカで住む場合、外見が綺麗に見えたとしてもパテなど自分で修繕できるような道具を持っておくことは必要なことだ。日本と違って、隙間風程度で業者を呼んだら1ヶ月くらいかかるかもしれないし、結構な金額を請求されてしまうかもしれない、つまり、パテを買っておいた方がいいということだ。またこれも日本と違って、住民が必要のためにしたことなら文句を言われることもあまりない。念の為、管理人さんに自分で直していいか聞いてみたら、「白ならいいよ」ということだった。

 

僕はパテを持っていた。浴室やトイレで使ったからだった。それにキッチンでも使った。そのパテがまだあった。結構な容量のパテを買ってしまったから、このパテが役に立つ時が来たということで、喜んでいた。

 

床と壁の隙間にパテを塗り込んでいった。ぐいぐいと塗り込んでいたときに、ふと思った。もしかして外壁に穴が空いていたら、このパテは外壁の外に出てしまってはみ出てしまうんじゃないか、そんなことを思ってしまったから、ぐいぐいとパテを塗り込む楽しい作業もちょっと加減した。そしてゴム板をはめて、カビを拭き取って、念の為、どこから隙間風が入るか分からないので、窓を塞ぐときに使ったビニールとアルミシートを使って、隙間風が多かった壁一面を覆っておいた。春になって、このシートを取る時にはカビだらけだろうとか思った。

 

隙間風はなくなった。

 

ボストンにはレンガの家やアパートメントが多い。ボストンブリックというのは、部屋の片側一面がレンガになっていることをいうらしく、我が家のリビングも一面がレンガになっていた。レンガをよくみてみると、レンガとレンガの間のつなぎがボロボロになっていて、ちょっと触っただけでも崩れてくる。きっと外壁もこんな感じなのかもしれないと思った。おしゃれとか言ってられないのがボストンブリックだ。

 

今、住んでいる部屋の隙間風で咳が止まらない僕は、ボストンのことを思い出した。あれは辛かった。良いことばかりじゃなかった。どちらかというと僕はボストンが嫌いだった。西海岸に住みたいとかそのときは言っていた。

 

でも考えてみたら、ボストンの場合は、いろいろと好き勝手やっても怒られることもなかったし、あっちも適当ならこっちも適当で住んだ。いま住んでいるところは、住まいセンターとかの話を聞くと、元に戻せない分は、いくら必要があったことでも請求しますということだった。じゃあ、隙間風くらいそっちで塞いでよ、と思った。

 

ボストンの思い出補正はやはり効いている。