いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

移住先に困る!<7>(自閉症児篇)<不安材料があるにはあった移住先>

移住先に困る!<6>(自閉症児篇)の続きになります。

 

移住先候補として有力だったのは、愛知県日進市だった。市の総合計画や条例なども読んだ。転入者を入れるために商業や宅地開発を精力的に行なっている市ということもあって、名古屋の下町で感じたような閉鎖性、排他性もあまりないだろうとも思った。実際、いま住んでいるところは、転入者が多いということもあって、下町独特のあの感じはない。しかし、しかしだ、だからといって、障害児や多胎児の育児がしやすい市であるかどうかというのはまた別の問題だ。下町の人情味があればひょんな縁から近所の人が助けてくれるかもしれない、というのはさておいて、愛知県日進市の保育園の申込みを読んでいたら、ちょっと危険な臭いがした。障害児、多胎児に対する調整加点が一切ない、記載がなかった。妻は、この市はあやしいかもよ、と言っていた。

 

困ったことがあった。

 

障害児多胎児多子に対して一切の優先利用等の配慮がない、というのは政府の通知や基準、近隣市町村の状況から見ても、社会通念上あり得ないだろうと、その時は思った。きっと記載はないが、長久手市のように応相談として障害特性や障害児の家庭環境などを加味して配慮をしているため、わざわざ記載していないだけだと思った。名古屋市でも社会通念上妥当だと思われる配慮に関してはわざわざ記載せず、区役所で状況を説明したら、「当然のことです」みたいな反応だったし、東京の郊外の市でも、優先利用だけじゃなく、定員を臨時的に増やすような配慮まで行われたのだから、そんなに心配することじゃない。それに、日進市には、障害者差別解消法に対する職員対応要領までしっかりとある。市の計画を読んで見ても、多様性などがしっかりと謳われ、市の子ども条例にも「特別に支援が必要な家庭、子どもへの支援」とある。この「特別に支援が必要な」という文言を使って、小学校などの就学支援もしている。対象には、軽度知的障害や自閉症も含まれていた。小学校を見てみると、支援級などの評判もいい。これは日進市がいいんじゃないか。何せ、「子育てがしやすいまち」や「差別のないまち」を計画のスローガンとして掲げているし、障害者や多胎児を支援する施策は確かにそこまで充実しているわけではないが、それでも少しはやっている。法令で決められていないような施策を行なっているのだから、きっと日進市は、気持ちは障害児や多胎児などへの支援、配慮をしようとしているが、まだ追いついていないだけで、保育園の利用調整による優先利用などという最も簡便に、財源が必要もないような、それでいて、政府通知や方針や近隣市町村などの社会通念上からも妥当だと思えるような障害児や多胎児への配慮をしないわけがない。なんなら、市の裁量権が強いこれらの配慮は、豊田市東郷町のように政府の基準以上の配慮を自ら考えて行うことだってするかもしれない。何しろ、「子育てがしやすいまち」を目指しているのだから、そして子育てがしやすいというのは、もちろん、政府の少子化社会対策大綱を大元にした考えから生まれている目標であり、その中でも、子どもを産むやすくするということで、配慮支援の必要が「特に」言及されている障害児や多胎児であれば、「子育てしやすい」「差別のない」などというような目的を掲げる市町村が、何もしないわけがない。

 

そんな論理で僕は考えていた。僕は性善説でしょ? と言われることがある。

 

結果は、無惨なことになった。近隣市町村の中で、最も、障害児や多胎児、多子に配慮をしない市に移住してしまった。住んでいる場所も気に入っているし、知り合った人たちもいい人が多い、スーパーで民度が気になることもないし、車の運転は一時停止不停止やウィンカーを出さずに曲がってくる人も多いけれど、名古屋の下町よりは横断歩道に歩行者がいると停まるし、排他的な感じもない、保育園の園長や主任、担任も素晴らしい人たちに囲まれている。それに長女が通う予定の小学校とも何度か話しているけれども、入学前からいろいろと気遣ってくれていて、心強い。療育センターで長女を担当してくれている方も頼もしく、親身だ。療育の施設も長女はとても気に入っている。しかし、市行政、市の対応、市の姿勢は、障害児や多胎児は自己責任というものだ。

 

現在、僕らは三つの保育園に通っている。それでも、遠方の道が厳しい保育園に双子を通わせていた頃よりはマシなくらいだ。遠方の保育園の方が、一人を待機児童にされるよりもマシなくらいだ。「双子を別々にすることなんてありえません」と言った東京郊外の市の職員さんや、名古屋の区役所の職員さんがこの状況を見たら驚くだろう。近年政府の方針などがいろいろある中で、他の市町村では「ありえない」とされるようになったことが、日進市では起こっている。10年、20年前ならあったかもしれないことが、再三の相談、再三の指摘の中でもどうにもならないのは、田舎だからなのだろうか。いや、同じような田舎でもより田舎の隣町ではこんなことはやはり「ありえない」になっている。そして僕は、移住先で揉める人みたいになっている。僕が揉めているのは住民とではなく市役所とだけれど。住民とはうまくやっているというか応援してもらっている。市議に立候補したらと真顔で言われている。市議といえば、うちの問題をめぐって3人くらい仲良くなった。
 
移住先に困る!<8>(自閉症児篇)に続きます。