「ダイニングセットを完成させよう!」
困ったことがあった。
新しい家になったのだから、新しい家具にしよう、手始めに椅子を買おう、と妻と相談していた。なぜ椅子だけなのかというと、三井ホームはキッチンハウスと提携していて、キッチンハウスでは、キッチンの天板と同じ材料、同じ色でダイニングテーブルが売っていたからだった。高いといえば高いけれども、安いといえば安いという微妙なお値段のダイニングテーブルを購入した。
キッチンハウスに僕らが惹かれたことの一つに、キッチンの天板が薄いというのがある。薄い天板だと耐久性が不安じゃないかというのがあって、当初は、分厚い天板のキッチンにする予定だった。というより、キッチンの天板はだいたい分厚いものだから、何も言わなければ、今時のキッチンはそこそこ分厚いキッチンの天板になると思う。
三井ホームのモデルルームに行って、キッチンハウス以外のキッチンを見ていた。普通のキッチンというのも失礼だけれど、最初に見たのは、想像していた通りのキッチンで、申し分ないと思った。しかし、僕らが三井ホームさんの街中モデルハウスで見たキッチンと比べると、少し重厚すぎるような気がした。街中モデルハウスのキッチンは、スッとしていた。シュッとしていた。
「重厚で頼もしい感じのキッチンで素敵だと思うのですが、街中モデルハウスにあったキッチンも見させてもらっていいですか?」
「次にご案内させていただこうと思っておりました。キッチンハウスさんのキッチンになりまして、天板が薄いためスッキリした印象を持たれていたと思います。天板が薄くても耐久性がとても高くなっておりますので、おすすめさせていただいております」
と紳士のSさんの押し付けがましくない和かな誘導に従って、キッチンハウスのキッチンを見た。そう、天板が薄い。この天板は、なにやらかにやらというの出来ていて、耐久性がとても高いそうだ。重厚なキッチンばかり見ていたというのもあったために、このスタイリッシュというか、シュッとしたというか、スッとした感じの天板は一見、頼りないけれど、見慣れてくるとキッチンが持つ独特の作業感がなくなり、家具の一種のように思えてきた。
「まるで家具みたいなキッチンですよね」
「おっしゃる通りでございます。キッチンハウスさんのキッチンは家具のような雰囲気ですので、アイランドキッチンなどの対面式を希望する方たちに人気になっております」
対面型。そう、僕は対面型のキッチンなのに対面する空間にツッパリタイプの水切りを置いてしまって、対面殺し、の異名をとったことがある。対面のカウンターには炊飯ジャーも置いた。対面遺棄の容疑もかけられていた。
今度の家では対面殺しはしないと誓っていた。そもそも、キッチンが広ければ対面を封鎖する必要もないし、大きな食洗機があるのなら、水切りだっていらない。僕が対面殺しをしてしまったのは、それなりの理由があったのだ。乳幼児3人もいれば、水切りが倍必要になる。哺乳瓶やら子供用の食器やら離乳食用のなんだかいろいろな物が、僕を対面殺しにさせたのだった。
対面式を楽しいものとして考えてみると、このキッチンハウスさんのシュッとした天板はかっこいい。キッチンは頑丈で要塞のようであればあるほどいいと思っていた僕からすると、この家具のようなキッチンというのは思ってもみなかっただけに、死角から攻撃を受けたような気持ちになった。なんだか対面殺しのせいで物騒な例えが増えてきている気がする。
キッチン要塞からキッチンハウスへということなんだけれども、こう書いてしまうと、ちょっと恥ずかしい感じもする。
この家具のようなキッチンというのをキッチンハウスさんはよくお分かりなようで、同じ天板を使ったダイニングテーブルというのも売っていた。これがまたいい。天板の素材と色が統一されることで、対面式のキッチンとダイニングが一体となって、ハウス感が出る。ダイニングキッチンがワンピースになるという仕掛けだ。
ここでも僕の思い込みが少し変化した。
僕はダイニングテーブルの天板も分厚い方がいいと思っていた。もちろん、耐久性というがある。分厚いテーブルは重いかもしれないけれども、ダイニングテーブルくらいは重厚な方がいいと思っていた。
ダイニングセットに困る!<中>(主夫編)に続きます。