いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

迷子に困る!<三>(自閉症児篇)<長女が行方不明>

迷子に困る!<二>(自閉症児篇)の続きになります。

 

長女が障害児であること、そして次女三女が双子。また転入してきた僕らは市内はおろか県内に頼れる親類もいないことなどを、育児の困難さを市役所に訴え続けたけれども、市役所は「他の人から不公平だと思われてしまう」という理由で、一切の配慮を拒絶した。このことは半年ほど市役所と揉めている最中なので、どこの市役所だとは今は書けない。しかし、市役所の配慮の拒絶から、僕らがこれまでギリギリの中でやってきた育児がほころびはじめてしまった。ボストンでも東京でも、そして名古屋市でも僕らの育児は制度によってある程度守ってもらっていたことがよくわかった。困っている人を助けるという制度がない場所に住むというのはこういうことなのだろう。

 

困ったことがあった。

 

長女の身に何が起こったかというと、保育園からいつの間にか消えていたということだった。保育園内を探してみるけれども、いない。下駄箱を見ると、靴がない。その日は雨が降っていたため、長女は傘を持ってきていた。この傘にしても、自分で開くことができない傘だけれど、友達の多くが傘を持っているということもあって、年少さんのときに買ったものだった。今でも長女は自分で傘が開けず、僕や妻に「開けて」とお願いしてくる。子供用の傘なのに、つい力を入れてしまって金具の上まで広げてしまうことが僕にはあるけれど、それはまた別の話だ。

 

妻は慌てた。保育園に報告すると、園長さんを含めて大捜索がはじまった。すでに帰宅した保育士さんまで長女を捜索してくれた。警察にも連絡した。妻は僕にも連絡したようだったけれど、僕はちょうど打ち合わせがはじまって、電話をカバンにしまっていたことから電話に気が付くこともできなかった。僕が知るのは、打ち合わせが終わって、帰宅しようと思って電話を見たときだった。そこには、LINEで「無事に見つかり、もう寝ました」とあった。

 

僕の仕事は基本在宅で、打ち合わせもオンラインが大半だ。月に一度か二度、外で仕事があるけれども、育児をするようになってからは、外での仕事は極力しないようにしている。それでも、僕が外で仕事をするときに限って、長女が行方不明になったり、次女三女が高熱を出したりする。たまに外で仕事をしたら、帰りに仕事仲間たちと育児の息抜きがてら飲みたいと思うけれど、飲み始めたときに妻から呼び出されることもある。妻が仕事の慰労会などの飲み会で遅くなるときに、こどもたちのトラブルで呼び出したことは今の所一度もない。

 

家に帰ってから、何があったのか聞いてみた。

 

長女が発見されたのは、家から歩いて5分ほどの場所にある商業施設だった。保育園からも歩いて5分ほどなので中間地点でもある。長女の保育園に帰りに、その商業施設に寄ることも週に一度くらいはある。発見の契機になったのは、長女の傘が商業施設の入り口に置いてあったことだった。今まで入り口に傘を置いたこともなく、傘を包むビニールに入れていたのだから、なぜ、入り口に傘を置いたのかは不明だ。長女に聞いても教えてくれない。何のことを言われているのか分からない感じだ。

 

長女が商業施設にいることが分かると、警察が内部を捜索してくれた。そして、ニコニコとおもちゃを見ている長女が発見された。

 

妻が次女三女を保育園に預けたまま駆けつけると、長女は泣きもせずに、ニコニコしたまま「レミンちゃんが欲しかったの」と言っていたらしい。そして、妻が「勝手にどこかに行かないで!」と涙まじりに言うと、長女は怒られたと思って、泣き出してしまったらしい。

 

その後、警察に事情を説明し、今後もこんなことがあるかもしれないから、後日、相談することになった。保育園もこのことを重く見て、帰りの準備のときに目を離さないようにすると言ってくれた。また、これが僕らをびっくりさせたのだけれど、長女の通う保育園では、長女が障害児という認識がなかったということだった。入園前の説明会でも、その後の面接でも、もちろん電話でも、長女が障害児であり、障害者手帳も保持していることは何度も言っていた。が、その保育園では、「障害児に見えない」ということで、担任の先生や他の保育士さんは、長女が障害児であるという認識がなかったそうだ。どういうことなのだろうか。

 

少し思い当たる節がある。保育園の入園申込み書には、障害者手帳があるかどうかのチェック欄がある。長女は手帳が交付されていたので、もちろんチェックした。また保育園の利用申込時にも、市職員に手帳を提示している。また、転居に伴い障害児への給付金の手続きなどもあるので、その手続きもした。給付金は妻の年収が上がったため、給付されないことになった。給付されないという連絡が仕事中の妻の携帯に何度もあったことは記憶に新しい。また、別の件で、児童相談所に連絡していたときに、「障害者手帳はお持ちですか?」と聞かれたこともある。児相の担当者は、市役所から「障害者手帳がないと思います」と言われたらしい。つまり、市役所は、長女が障害者であることをある課は認め、ある課は認めていないというヘンテコなことになっている。そのため、長女が通う保育園も入園時に、園長が市役所に相談すると言っていたことがあるのだけれど、そのときに、「障害者ではない」と言われた可能性がある。市役所のこども課は、障害者手帳を提示されたにも関わらず、配慮を拒絶した経緯から、長女が障害者であるということを、保護者が障害児だと勝手に騒いでいるだけ、という認識にしてしまった可能性がある。これは大きな問題だと思うし、そういうことが起きているのであれば、この数ヶ月の市役所との奇妙なやりとりの意味も分かる。

 

長女が障害児であるという認識がされていなかった。このことが保育園側の対策が遅れてしまった原因でもある。また、そもそもの別園という状況が、保育園利用を困難にさせている。もちろん、市役所には何度も相談しているけれど、相手にもされないというのが現状だ。

 

迷子に困る!<四>(自閉症児篇)に続きます。