「見えないお友達が突然いなくなった」(長女5歳6ヶ月)
困ったことがあった。
長女には3歳になるかならないかあたりから見えないお友達がいた。そのお友達はどんどん増えていて、5歳を過ぎたあたりではピークに達して、5人くらいの見えないお友達がいた。
お友達にはそれぞれ名前がついている。それぞれ住んでいるところも違ったり、隣に寝ていたりする。中でも最も長い付き合いだったのが、ティアラちゃんという名前のお友達で、ティアラちゃんは長女のいるところであればどこでもいた。
「ティアラちゃんは今日、寝ないんだって」
そんなことをふいに言ってくることもある。
「ティアラちゃんは、今日は、東京のアラニちゃんのお家に泊まるんだって、いいなあ、一緒に泊まりたいなあ、ティアラちゃんは1人で電車に乗れるんだよ、すごいよね、東京には電車に三つ乗るんだよ、アラニちゃんは東京に住んでいるんだよ」
と一生懸命話していることがある。僕らは名古屋に住んでいたけれども、東京という地名を長女が覚えたのは、妻がたびたび出張で東京に行くというのもあるし、長女は東京生まれでもあるし、名古屋に来る前には東京郊外に住んでいたということもあって、長女が喋ることができるようになってからは、東京という地名もよく出てくるようになった。
そして、アラニちゃんもよくうちにいたけれども、どうやら東京に住んでいるということらしい。あるときから、ティアラちゃんはアラニちゃんに会いに東京に行くことが増えた。
「ティアラちゃんは東京に行ってるの?」
「そこにいるよ、こっち見てるよ、ティアラちゃんは今日は一緒に寝るんだよね、ねえ、ティアラちゃん」
そんな感じでティアラちゃんは長女とよく一緒にいるようだった。東京に行ったと思えば、すぐに名古屋に現れるのがティアラちゃんだった。
こういう想像上の友達というのは、子供の頃によくいるらしい。だいたい半年間くらいいるらしい。人によっては大人になってもその友達が去らないこともあるらしい。自閉症の人に多いという話をどこかで読んだ。
自閉症と診断されている長女に想像上のお友達ができるのはごく自然なことだったのかもしれない。
想像上のお友達の存在と、人形やぬいぐるみとやっているごっこ遊びは何が違うのだろうか。次女三女が長女の想像上のお友達とどう関係しているのか見ていると、次女三女にとっては、ティアラちゃんはお人形を使ったごっこ遊びとさほど変わらないみたいだ。長女がたびたび引き合いに出す想像上のお友達のティアラちゃんを、次女三女もお友達として迎え入れたようにして遊んでいることがある。
「ティアラちゃんどこ?」
と次女が聞くと、
「ティアラちゃん、ここにいるよ」
と長女が何もない場所を指している。
「そっか、ティアラちゃん、これどうぞ」と次女は何もいない場所におもちゃを渡そうとしている。次女三女には、ティアラちゃんは見えないが、見えないなりに、長女のごっこ遊びの設定として受け入れて遊んでいる。
長女の想像上のお友達ティアラちゃんは、保育園でも有名みたいだった。保育士さんはもちろん、保育園のお友達も知っていたし、長女が描く絵にもティアラちゃんは主要キャラクターとして登場している。絵に描かれると見えるお友達になるから不思議な気もした。
消失に困る!<中>(自閉症児篇)に続きます。