「レンガの隙間に穴が開いているのかな?」(長女1歳2ヶ月)
困ったことがあった。
帰国してもう3年くらい経ってしまって、ボストンの思い出も薄れてきてしまった。思い出が薄れると、ボストンの日々が楽しいことばかりだったような気がするのが、思い出補正というもので、そういった補正をなくしてくれるのが、忘れられない経験だったりする。
先週くらいから咳が止まらなくなった。妻の入院騒ぎで、子供たち3人と寝るようになって、僕の布団が三姉妹の誰かに奪われる日々が続いた。朝、掛け布団を奪われた僕が寒さで起きることが日課のようになっていた。
そして妻が退院する日、僕は喉をおかしくしてしまった。熱は平熱、咳も鼻水もなかった。
妻が退院して、僕も安心したのか、翌々日あたりから発熱した。発熱といっても、ちょっと熱っぽいと思える37.0度程度。子供が3人いるということで、抗原検査キットの予備もあるから使ってみたけど、陰性だった。
次の日には熱も下がったけれども、咳が出るようになった。寝ようとすると咳が出る。普段は出ないのに、眠ろうとすると咳が出る。僕は窓際に寝ていて、窓からはスーッと隙間風がある。冷たい隙間風を感じると咳が出てしまう。
ボストンでのことを思い出した。
ボストンに住んで最初の秋、僕は咳が止まらない日々が続いていた。熱もなく、関節痛もなく、鼻水が出るわけでもないのに、咳が止まらなかった。そのときも寝ようとすると咳がはじまった。とてもひどい咳で、咳のしすぎで疲れてしまうくらいだった。また糖尿病の治療で糖質制限などもしていたということもあって、体重は激減、体力も落ちている頃だった。
「咳が運動の代わりみたいになっている」
とか、運動も少しはしなければならない糖尿病患者の僕は、咳をポジティブに受け止めていた。1ヶ月、2ヶ月と止まらない咳との共存を考えていた。
妻からは病院に行くことを勧められていた。糖尿病治療で病院に通ってはいたけれども、その頃は薬が切れたら来い、みたいな感じで、薬は3ヶ月分くらいもらっていた。英語が苦手な僕はできるだけ病院には行きたなかったし、それに、熱もないし、普段は咳もでないということもあって、市販の薬でも飲んでいれば治るさ、とか思って2ヶ月だった。
2ヶ月もあれば、というより、1ヶ月もしないうちに咳は治まってきて、2ヶ月目は、寝るときに咳が止まらないときがあるくらいの症状だった。
あるときに、ふと気がついた。
寝ようとするときに咳が出るというのは、それはそうだ。しかし、寝る時といっても、そこにもまだ細かい原因が潜んでいた。寝る時に、隙間風で冷たい風に当たると咳が出る、ということだった。ただ単に寝るときに出るだけじゃない、冷たい空気に触れると咳が出ていたということを見逃していた。
僕らの部屋は角部屋だった。寝室も仕事部屋も外壁に面していて、どちらも窓や壁のどこかからか隙間風があった。部屋自体はボイラーで温められているので、管理人さんがきちんと仕事をしていれば寒いということはなかった。健康な状態であれば、多少の隙間風があったとしても、半袖短パンで過ごすのがボストンのアパートメントの冬の常識だ。
はじめての秋ということもあったけれど、僕らが最初にボストンに来たのは三月で、そのときは雪が多かったということもあって、ちょっと寒い三月だったけれども、最初に住んだ家は隙間風もなかったし、外が吹雪いていても快適だった。
そんなことから、ボストンの秋も、そして隙間風もあまり気にしていなかった。
「寒い地域ほど、部屋の中は暖かいというよね」
そんなことを妻と話していた。
さて、問題の隙間風だ。窓はペアガラスだけれども、ちょっと古いのか、窓枠あたりから隙間風が入っている気がした。あと、開閉部分も劣化しているのか隙間があるようだった。
ネットで調べてみると、窓枠を覆うものがあるようで、ボストンなどの寒冷地では冬の備えとしてやっているみたいだった。僕もAmazonでそれっぽいものを注文して自分でやってみた。
思ったより長くなってしまったので、レンガに困る!<下>(ボストン篇)に続きます。