いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

エリートに困る!(ボストン篇)<みんな浮かれた顔をしている>

「エリート気分を味わってしまった」(長女2歳)

 

困ったことがあった。

 

そう困ったということでもないのだけれども、思い出すとモヤモヤするということで困った。

 

アメリカというか、ボストンは世界有数の大学や研究期間が多くあるため、世界中からエリートと呼ばれる人や、エリートになりたい人や、エリートの真似をしたい人で溢れている。

 

そんなボストンにいた僕も、なんだかエリート気分を味わって、ハーバード大学の敷地を子連れで散歩して、道案内したりしていた。きっと、僕はハーバードの何かで空いている時間に子供を散歩しているお父さんに見られていたかもしれない。

 

妻はエリートと言われる類の人かもしれない。学歴や職歴だけみても、たしかにテレビならすげーって言われる感じだ。ワイドショーのコメンテーターとかで用意される学歴エリート枠みたいな感じ。

 

そんな妻といると、僕もエリートだと思われがちだ。で、エリートだと思われてしまうから、自ずと、エリートなのか自称エリートなのかただの金持ちか分からない人たちと知り合いになってしまうことも多かった。

 

妻はそういうタイプの人たちが苦手で、娘と参加したイベントなどで知り合ったママ友たちとばかり付き合っていた。後で知ったけれども、ママ友たちの学歴はボストン界隈にはよくいるエリートの経歴でありながら、妻のママ友たちはボストン界隈の学歴エリートが嫌いなエリートが多かった。あの辺に住んでいると、ハーバード卒やMIT卒とかは、公園によくいるタイプ。だから僕はいつもハーバードかMIT、ボストン大の人だと思われていた。その辺によくいる何しているのか分からないタイプの人はだいたい大学関係者だからだった。

 

僕は高卒だ。しかも、高校卒業も怪しいところで、高校三年生の頃に、本来なら出席日数が足りていないということで留年になるところを、頼んでもないのに担任が出席日数を誤魔化して卒業させてくれた。そのことは10年ぶりの同窓会で担任から言われた。だから、きっと、僕の実力としては高校中退というのが正しいのかもしれない。毎日通うということができない。

 

そんな僕が妻のご威光とボストンの何している人か分からない風態ということで、エリートのようになってしまった。

 

MITにいる人から、ビールがただで三杯飲める場所があるよ、と教えてもらって出かけた。

 

その場所は、日本のテレビでも紹介されていた。

 

帰国してから、テレビなどでボストンの街並みとか、ボストンの紹介みたいな番組があるとつい見てしまうようになった。2年住んだだけだし、帰国して間もないから懐かしいというよりも、そんな番組を見ながら、何の意味があるかは知らないけれど、「ああ、あそこ行った」とか思って楽しく見ているだけ。

 

そんな中で、とあるカフェが出てきた。僕がタダ酒に惹かれて行ったところだった。

 

そのカフェは、世界中からいろんな人が集まる。企業の人や大学関係者なども多く集まることから、その場所で出会いを作り、新しいプロジェクトが発信させる場所になればいいということで、起業家たちが出資して作ったカフェだ。

 

とてもリベラルで雰囲気もいい。

 

ただ嫌なのは、エリート臭がするところだ。外国の人だと表情や振る舞いが違う文化だからよく分からないけれども、日本人らしき人たちの振る舞いはピンとくるものがあった。浮かれていやがる。エリートを鼻にかけて浮かれていやがる感じ。まあ、僕が非エリートだから僻んだ目にそう映っているだけなんだろうけれども。

 

そんなカフェだった。僕は限界のビール三杯まで飲んで、すぐに外に出て、今度はお金を払うビールを飲んで帰宅した。ただのビールは美味しかった。

 

日本のテレビ番組では、そのカフェは自由に出入りできるかのように編集されていた。実際には自由に入れるわけがない。ビルにある受付で身分証を提示し、その条件に見合った身分証を持っていないとエレベーターすら乗ることができない。エレベーターに乗ってしまえば自由だけれども、妻のご威光がなければ、僕はエレベーターの前のゲートで止められる。ドレスコードの方がまだ自由なんじゃないかと思った。IDコードがそこにはあった。

 

カフェの中はリベラル。カフェの入り口は差別的。なんだか、これがボストンという感じもした。立派なIDがあれば、ボストンは住みやすい。保険も入れるし、病院を断られることもない。不動産屋は預金以外は信じないからIDだけちらつかせても信用すらしてもらえない。

 

不動産屋がそうなるのも無理がない。立派なIDの保持者が毎年何万人も量産されるのがボストンだ。どこの誰がどんな手段で手に入れたか分からない立派なIDには収入や預金を保障するものはない。本人たちはエリートの証のようにIDを持っているけれども、ボストンではそんなIDを持つことが最初の条件でもある。浮かれているのはそんなIDに何かしらの価値を見出してしまっている人たちくらいだ。

 

そんなIDにエリートの承認欲求を満たしてくれるのが、このカフェだ。テレビで見ると気持ち悪くなった。ビールはおいしかったけれども。