「あなたが困るんじゃなくて僕が困るんです」(長女2歳8ヶ月、双子7ヶ月)
困ったことがあった。
アメリカから帰国すると、日本ではコロナの影響で新習慣が生まれていた。その一つがオンライン飲み会というもので、それまではオンラインで飲み会をするなんてことはあまりなかったと思う。
アメリカにいるときにオンライン飲み会が定着していれば、僕も友人たちとの飲み会が定期的にあったのに、とか思った。アメリカにいるときに、飲んでいる友人たちからLINEなどで連絡があることもあった。友人たちは対面で飲んでいる。そこにLINEなどで参加しても電波が悪かったりなんなりして結局は、すぐに通話は終了する。ビール一本すら飲もうと思えなかった。
しかし、帰国したらどうだろう。オンライン飲み会というやつで気軽に飲み会に参加できるようになっているじゃないか。気軽に参加できないのは、ただ単に、僕の家には乳児が2人増えてしまったということだけだった。
友人たちから頻繁にオンライン飲み会に誘われるようになった。帰国したばかりの僕を歓迎しようとしてくれている。それはそれでありがたいのだけれど、子供1人であれば、妻に寝かしつけをお願いして飲み会に参加することはできるが、双子乳児もお願いするのはさすがに気が引ける。
3人の乳幼児の育児は、大人2人でフル回転しても手が足りない。ワンオペ1日で心が死ぬレベルだ。
とはいえ、飲み会には参加したい。そうなると、寝かしつけが全て終わった時間になる。22時から0時までならどうにかなるかもしれない。でも、飲んでいたらオンラインといえどもそこそこうるさい。それに双子の夜泣きでいつ中断するか分からない。
「夕ご飯食べながらでもオンラインで飲もうよ」
と誘ってくれた友人がいた。夕飯どきは戦場だ。オンラインで飲む以前に、電話ですらむずかしい、宅配便の人にも18時から20時はどんな荷物であっても置き配にして欲しいと頼んでいるくらいだ。インターホンが鳴ると長女が騒ぎ出す。彼女にとって、宅急便屋さんはいつでもサンタクロースなのだから。
「子供がうるさいから、夕飯どきは無理ですねえ」
「じゃあ、いつなら大丈夫?」
「夜の22時くらいならどうにか」
「それは遅いなあ、奥さんともお話ししたいし」
「そうなると、双子が落ち着くようになるまで無理かも」
「いつ?」
「いつになるのか分からない」
そんなやりとりをしていると、友人との関係が気まずくなった。育児をしていない人からすれば、単に、私がその友人と飲むのを嫌がっているように思ってしまうのだろう。そんなことはないのに。ただ、育児をしている中で飲む会の時間を作るというのは、どちらかがワンオペになることでもあり、または夜遅くに睡眠時間を削って飲むしかない、それが育児下の飲みになる。
「子供が騒いでも気にしないのになあ」
もちろん、友人に悪気があるわけではない。僕も育児をする前は、子連れだからということで何かの誘いを断られると、ふとそんなことを口走ったことがある。
「子供が騒いでも見ているだけなら気にもならないですもんね」
嫌味を言うつもりはなかった。しかし、それが全てだった。
子供を連れていると、子供が騒いでも気にしないと言ってもらって助かることも多い。だけど、子供が騒いで大変なのは子供を世話している人であって、それを見ているだけで怒る人が少しやばいわけであって、騒いでいて気にしないというのはありがたいけれども、やばい人ではない、というくらいの話でもある。
オンライン飲み会などで子供が騒いだとしても、直接いないのであれば、音声でも切ってトイレに行ったり、つまみでも作っていたりすれば、状況は改善される。子供が騒いだ側は、手に排泄物がついていたり、肩にミルクがかかっていたり、髪の毛がぼさぼさになっていたりする。だから、乳幼児がいる状況でのオンライン飲み会は大丈夫じゃない。
友人が明らかに気を悪くしてしまったので、メッセージでのやりとりだったけれども、長い説明をしなければならなくなった。理解してくれたのでよかった。
その後、その友人は、一緒に睡眠時間を削って夜の22時から飲んでくれるようになった。布団に寝転がりながら酩酊している姿は羨ましいとも思う。僕はなんだかんだと寝ている子供が気になって酩酊するまで酔えない。