いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

無料英語教室で困る!(ボストン篇)<外国語の発音なんか気にするな>

「英語教室に4回通って英語が話せるようになりました」(長女8ヶ月)

 

困ったことがあった。

 

ボストンでの引越しも終わり、生活も少し落ち着いてきた。一年半以上住むことになったということもあって、本腰を入れて英語の勉強でもしようかと思った。

 

僕の英語力では今後のアメリカ生活が不自由になる。

 

最寄駅の近くにある図書館で毎週、無料英語教室が開催されていた。ボストンの図書館の多くは、こうした無料英語教室を開催している。さまざまな国から英語が話せない人がやってくるし、彼らも税金を払っているのだから、英語教室などのサービスを積極的に行うというのは公平さを重んじるアメリカらしい。

 

クラスはいくつかに分かれている場合がある。場所によっては初級だけ、あるいは英語の本を読む読書クラブなどの上級者用だけなど、図書館によって分けられている。僕が行ったところは、無料英語教室に力を入れているところだったようで、初級から上級まで3クラスあった。

 

初級クラスの時間に顔を出してみた。

 

「あなた、日本人よね、日本人はみんな初級クラスを受けたがるんだけど、日本人の多くは英語の教育を受けているから、中級クラスからはじめた方がいいと思う」

 

模範的な日本人は、こう言われたときに、きっぱりNOと言う。日本人は初級クラスが好きなのだ。

 

「発音が苦手なんです」

 

「日本人はみんなそう言うね、じゃあ、初級クラスに参加してみて、中級にしたくなったら言ってね」

 

と、そんな感じで初級クラス。使う教材は中学1年生くらいの英語レベルだったと思うから、文法の勉強になるわけでもない。しかし発音や会話に慣れる勉強はできるはずだ。

 

男性は僕と、あとイランから来たという2人のおじさんだった。1人のおじさんは電話がよくかかってくるし、すぐに電話に出てしまうから、その度に注意されていたけれども、本人も慣れている感じで気にもしていない。もう1人のおじさんは僕に一生懸命に話しかけてくる。

 

「すみません、英語で話してもらえますか?」

 

おじさんは英語で話しているようだった。昔、秋田に行ったときに神社でおじいさんに話しかけられて、標準語しか分かりません、と答えたときに「標準語で話している」と強い訛りで言われたことを思い出した。いまは標準語と言わずに共通語というらしい。

 

彼は、しきりとファデルがどうとか、マデルがどうだとか話していた。途中で、ファザーとマザーであることが分かった。そしてどうやら、僕が学生で、父や母の仕事でボストンに来ていると思ったらしい。40歳超えていると言っても、聞き間違いか? みたいな顔をしていた。

 

イランのおじさんと仲良くなろうとして、ペルシア帝国の祖キュロス王やギリシアを追い詰めたクセルクセス王について話してみたけれども、今度は、僕の発音がペルシア語の発音とまるで違ったのか、全く通じなかった。

 

イランのおじさんたちとのチームには疲れてしまった。クラスの雰囲気を見ると、どうやら、イランのおじさんたちとチームを組むのは避けられている感じだった。1人は強い訛りでずっと話してくるし、1人は電話で話している、英語を学びに来たのか飲み屋に来たのか分からなくなる。

 

次も初級クラスに行った。今度はウクライナ人の女性が来ていた。彼女と僕がイランのおじさん2人と一緒になった。おじさんはウクライナ人女性に一生懸命話していた。先週の僕を見るようだった。彼女の助けを求めるような視線に勇を鼓して、会話に加わると、おじさんが僕に対して手のひらを出して介入を拒んだ。おじさんは彼女が気に入ってしまったらしい。もう1人のおじさんはやっぱり電話をしている。僕は1人だった。次は中級に行こうと思った。

 

中級クラスに行った。教材は中学2,3年生あるいは高校1年生くらいのものだったが、初級よりも文法と発音を重視するクラスになっていた。女性しかいないクラスだったので、遠慮して誰とも隣り合わない席に座った。遅れてきた女性が僕の隣に座った。彼女は遅刻の常習犯らしくて何やら達者な英語で言い訳をしていた。ベビーシッターがなかなか来なくて遅れたそうだ。手にはスタバのコーヒーがある。

 

彼女はずっと僕に話しかけてきた。ブラジルから来たとかどうとか、何度か注意されていた。僕の困っている顔を担当者が見ていた。テキストに沿って発音をしていると、横で彼女が直してくれる。僕のSheはSeaに聞こえるらしい。他にもいくつか訂正してくれた。彼女の訂正する発音が僕にはよく分からなかった。また、注意されていた。そして、彼女の発音も違っているという指摘を受けていた。それでも彼女は僕の発音が気になるようで、授業が終わっても僕にレッスンをつけてくれた。

 

次の授業のときに先生に呼ばれた。さらに上のクラスに行けば彼女みたいな人はいないから、上級クラスに行かないか、とのことだった。考えてみたら、初級にしても中級にしても、僕はろくに授業が受けれていない。自分のレベルがどの辺なのかも分からない。ずっと誰かに話しかけられていただけだった。あるいは1人でポツンとしていた。

 

その日も中級クラスを受けた。またブラジルの女性が僕の隣に座ってきた。先生から人の発音を直さないように注意を受けていた。ブラジルの女性は英語がペラペラだ。だけど、文法が苦手らしい。日本の中学生でもできるような文法が分からないようで、僕に何度も聞いてきた。あれだけ英語が話せるのに、文法はこんなにできないのか、と思うと、英会話は、習うより慣れろってことかもと思った。

 

その日を最後に無料英語クラスに通うのはやめた。

 

イランのおじさんやブラジルの女性から大切なことを教わった。発音なんかは気にせず、ガンガン喋ればいい。それからは、伝わろうが伝わらなかろうが、僕は自信満々に英会話をするようになった。相手がキョトンとすることも多かった。