いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

母乳に困る!(東京篇)<母乳が気になる人がいるらしい。WHOだっけ?>

「やっぱり母乳?」(長女3ヶ月)

 

困ったことがあった。

 

長女が生まれて3ヶ月くらいして、産後のために減らしていた仕事関係の付き合いも少し復活してあれこれと人に会うことが増えた。子供のことを聞かれることも多かったし、育児の先輩たちの励ましや助言はありがたかった。

 

仕事や何かで僕が先輩風吹かして付き合っていた後輩も、育児では僕の先輩だった。家庭での細やかな気配りと、仕事より育児優先する姿勢は、僕の憧れの先輩だった。渡米するということもあり、しばらく会えないので飲みましょう、と誘われた。男親ってのはしょうもないところがあって、家で育児をしないで飲みながら育児の話をしている。呑気なものだ。

 

「お互い育児してますから、日をまたいで帰宅するのはやめましょう!」

 

いつも終電まで飲んでいた僕らは早く帰ることで育児をしている気になった。実際は飲んでいただけ。妻には申し訳ない気持ちもあったけど、妻の仕事でアメリカに行くのだから、渡米前の付き合いは許してもらっていた。

 

「育児の配慮ができる友達と飲むならいいよ」

 

あとは任せて寝てね、とミルクやオムツや夜泣きを引き継いだ。このくらいの月齢だと寝落ちが心配で酩酊するほどには飲まないものだ。

 

夜泣きやオムツはさておき、ミルクの準備というのが意外と大変だ。お湯を適温にして、ミルクを作る。そして飲ませてゲップをさせる。そして哺乳瓶を洗って煮沸する。書いてしまえばこれだけなのだけれども、毎日、一日何回も休みなしにやるのは大変なことだ。

 

不器用な僕は哺乳瓶の蓋がしっかり締まっていない状態でくるくるやってしまって、手元に吸い口だけを残して遠心力で飛んでいく哺乳瓶を何度か見ている。最初は、哺乳瓶はガラスだろ、手触りもいいし、ミルクをあげてる感じがいい、とか思っていたが、飛んで行った哺乳瓶は割れて凶器になった。哺乳瓶はプラスチックにした。4本くらい買って、剣山みたいなミルクホルダーに突き刺していた。

 

ミルクもよく飲む子もいれば、飲まない子もいる。よく吐いちゃう子もいるし、泣いちゃう子もいる。三人の赤子にミルクをあげてそれぞれ違いがあることを知った。長女はよく飲む子だった。ミルクだけは優等生だった。ごく稀に飲みすぎて吹き出していた。

 

職場で数人の人から言われた言葉がある。

 

「やっぱり母乳?」あるいは「完母?」

 

この質問がよく分からなかった。その情報を聞いてどうするのか分からなかった。

 

「ミルクと母乳ですけど、その質問って何が知りたいんですか?」

 

質問返しすると黙ってしまうことが多かった。そして疎遠になった。いまでもよく分からない質問だ。これはあれだろうか、カレーを作った!って言う人に、やっぱりスパイスから?って聞くような感じだろうか。それとも、料理を始めた!って人に、やっぱり鉄鍋を育ててる?って聞く感じなのだろうか。

 

「やっぱり母乳?」とそんなに親しくもないおじさんに聞かれたとき、気持ち悪いと思ってしまった。あなたにはあげませんよ、と陽気に言えば良かったのかもしれないけれども、「気持ち悪い質問しますね」としか答えられなかった。

 

僕はカレーをスパイスからは作っていない。カレールーやカレーフレークからはじまり、いまはスパイスを調合したカレー粉みたいなやつを使っている。カレー粉にスパイスをまぜて、いつかやるであろうスパイスから作るカレーのリハーサルをしている感じだ。カレーのスパイスと言っても難しい、ガラムマサラはインド人の知り合いに聞いたところ、各家庭でガラムマサラを作るという。となれば、市販のガラムマサラを使うことは、スパイスから作ることにはなるんだろうけれども、ガラムマサラから作っているわけではない。一つ一つのスパイスを混ぜて作ることがスパイスから作るカレーなのだとしたら、まずガラムマサラを作ることから始めなければならないだろう。

 

彼らにとって、ミルクはカレールーやカレーフレークなのだろうか。そうなると母乳はガラムマサラ。その母乳を形成するための食べ物や生活環境がスパイスになる。

 

「肉食?」あるいは「菜食?」または「バランスの良い食事をとってる?」とか「ちゃんと寝てる?」などと聞くのであれば、これは母体を心配してくれている人たちだ。疎遠にはならないだろう。

 

「やっぱり母乳?」という質問をなぜするのか、やっぱり僕には分からなかった。