「日米ドラッグストア対決」(長女10ヶ月)
困ったことがあった。
日本で子供が生まれて、あんまり利用したこともないドラッグストアを頻繁に利用するようになった。粉ミルクや紙オムツなどの育児の消耗品はだいたいドラッグストアだった。それまではドラッグストアのポイントカードを作ったこともなかった。
ポイントカードだらけで紙幣が少ない財布を見るのが切なくて、ポイントカードは極力作らなくなった。
子供が生まれると、そんな僕の切なさは非合理かつ非経済的だという気持ちがして、ポイントカードをたくさん作るようになった。
「ここのポイントって少なすぎて、そこのドライヤーと交換するくらいポイントを貯めるなら、店中のものを買わないといけないんじゃないですか?」
と冗談混じりに店員さんに言うと、申し訳さなそうな顔で謝られてしまった。僕は謝って欲しかったんじゃなくて、そのクレームとかじゃなくて、小粋な会話がしてみたかっただけなのにクレーマーみたいになっちゃった。
ドラッグストアのポイントが少なすぎる、と多くの人が思っているのかもしれない。そして、店員さんは客だけじゃなく、友達や恋人、親からも言われているのかもしれない。飲み会のネタに「お前のとこのポイント少なすぎ」とか言われて嫌な気持ちになっているかもしれない。店員さんだって、ポイント増やして後ろの棚にある商品をパッパと交換したいだろう。埃を払うことだけが目的に陳列されているドライヤーやら加湿器やら、用途不明な健康器具たちが見たくないと思っているのかもしれない。
ボストンのアパートの近くにドラッグストアがあった。日本のドラッグストアと同じようなものだろうと思いながらもメンバーズカードを作った。アメリカのドラッグストアはオモチャやらサングラスまで幅広く売っているので近くに住むと便利。値段が安いというわけでもない。
会計のときに、メンバーズカードを出した。クーポンを発行する機械が止まらない。
「ジャックポットみたいだ」
なんて小慣れた感じで言うと、「おめでとう!」みたいに笑顔で言われた。こういう感じの会話がしたかった。
発行されたクーポンはどうせゴミみたいなものだろうと思って、家に帰って妻に見せた。
「これ、全商品25%割引って書いてあるよ」
驚いた。こんなことがあっていいのか。ミルクと紙オムツ買わなきゃよかった。でも、ミルクと紙オムツを買ったから25%クーポンも出たのかもしれない。公平や平等を重んじるアメリカだけれど育児などに対しては優しい。育児を経済的に助けるのは当然という考えを営利企業ですら持っている。日本でそんなことをしたら、育児だけを助けるのは公平じゃない平等じゃないと言われるだろう。日本も公平や平等を重んじている。ポジティブに重んじるか、ネガティブに重んじるかの違いなんだろう。
僕は疑っていた。全商品25%割引なんておいしい話あるわけない。日本だったら、一品だけ25%割引(対象外商品もある)みたいになる。妻はアメリカの消費文化を信じろと言う。
全品25%割引になった。100ドルの買い物をしたら、25ドル。日本だったら、一万円の買い物をしたら2500円。その分、最初から高いのかと思ったけど、他のお店と比べてもあまり変わらない。
またクーポンが出た。今度は20%割引。
クーポンの割引は20%割引がほとんどでたまに25%割引がある。もちろん、全品だ。たまにピンポイントでミルクのメーカーが指定されて10ドル割引とかもあった。割引の仕方がすごかった。店員さんと割引をネタに会話していた。
帰国してからも、ドラッグストアでポイントを貯めている。店員さんにポイントについて何も言わない。ただ、たまにはアメリカのときのように、大当たりみたいなクーポンでも出たら良いのにと思う。店員さんも僕も楽しくなれる会話がしたい。