いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

三枚おろしに困る!(主夫篇)<料理初心者は魚にとまどう>

「魚を捌く」

 

困ったことがあった。

 

妻が妊娠して、安定期になった頃だと思う。つわりがひどかった妻が元気になり、いろいろ食べたい物が出てきた。

 

うちの家事分担は、僕が洗濯とゴミ捨て、掃除、洗い物、妻が料理と買い出しだった。妻の妊娠とともに、僕も仕事を減らしたというか、稼ぎの少ない本業を補うためにやっていた夜勤の副業は妻からやめろと言われてやめた。そんな経緯から、料理と買い出しも僕の役割になった。

 

事実上、家事は僕の領域となった。台所は聖域と化し、妻が触っていい場所は制限されることになる。台所は僕が使いやすいように位置を変えた。妻はパスタとかそーめんとか春雨とか、その辺のものしか触れない。床に落ちているパスタやそーめんの一本一本を片付けるのはもちろん僕の領域。なんだか大袈裟に書いているけど、つまり、料理をしはじめた。

 

16歳から割烹屋さんでアルバイトをしていた。といっても包丁は持たせてもらえず、デッキブラシで床面をゴシゴシするのが僕の仕事だった。たまには仕込みもやったけれども、海老の殻を剥いて、頭まで取れちゃうと「給料からひいておくから」と冗談なのか分からないことを言われる職場で、包丁を持っている板前さんの後ろを何も言わずに通ると引っ叩かれたり蹴られたりするという教育的な場所だった。数ヶ月でやめた。やめるって言って1ヶ月はみんなやさしくて居心地のいい職場だった。

 

そのあとも飲食店でバイトをした。ハンバーガー屋、ファミレス、喫茶店、牛丼屋。食材が用意されて、マニュアル通りにやればいいだけだったから、料理を覚えたという手応えはなかった。それでも、鍋の火の使い方、野菜の仕込み、包丁の使い方くらいは教わった。

 

自炊はあまりしなかった。毎日同じ物を食べても不満がなかったので、食パンとハムとチーズ、そして牛乳、家ではそれだけを食べ続けていた。だから料理は得意ではなかった。

 

そんな僕が妊婦に料理を作ることになった。安定期の食欲旺盛な妊婦。つわりで押さえつけられた食欲が爆発しそうな妊婦が、僕のお客さんだ。

 

早朝のファミレスメニューの経験か、僕の卵料理は評判がいい。スクランブルエッグからオムレツ、オムライスやフレンチトースト、この辺の卵料理はうまくできる。僕なら毎日でも毎晩でもそれでいい。だけど、妻は卵料理以外も食べたい。

 

オムライスがうまくできるなら、また卵を使ってチャーハン。これも評判がよかった。BLTサンドも妻のお気に入りだった。しかし、これではディナーにならない。

 

肉料理しかない。僕は角煮が好きだ。角煮にこだわってみた。角煮はご馳走だ。居酒屋で頼むと少ししか食べられないのに家で作れば、角煮だけでお腹いっぱいになる。もちろんゆで卵も煮ている。その後は、カレーだとか肉じゃがとか、煮物が楽な気がしてやりだした。

 

妻はなんでもおいしいと言って食べてくれた。

 

なのに、突然、魚を買ってきた。刺身ならそのまま食べられるからいいけど、なんの魚だったか忘れたけど、海で泳いでいる状態のまま、死んではいるけど、そのまま海にいた感じで一本か一匹か分からないけど、そんな魚。

 

動画を見ながら、3枚おろしにして、グリルで焼いた。手はぐちゃぐちゃで臭かった。

 

妻には、次、魚が食べたいときは心の準備が必要だから前もって教えて欲しいと言っておいた。しばらく、焼き魚だった。卵は魚卵になった。