いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

産院選びに困る!(東京篇)<セレブ産院から総合病院へ>

「セレブ産院で出産したかったらしい」(妻、妊娠中)

 

困ったことがあった。

 

妻が妊娠した。何をどうすればいいのかふわふわとした感じでその後のことを考えていた。

 

僕は妊娠出産ことがまるで分かっていなかった。調べたこともなかったし、その手の本も読んだことがない。妻の妊娠が分かってから、慌てて妊娠の本や妊娠の体験談を読んだりしていた。義妹が妊娠したときは住んでいる場所も遠かったので、妊娠中に一回、産後に一回くらいしか会っておらず、産後に会いにいったときに、赤ちゃんを見て僕は「宇宙人みたいだなあ」と宇宙人を見たこともないのに言ったことがあって、その日のうちに弟に怒られた。

 

いまでも、当時の話を弟が家族の前で披露する。僕には産後の妻に無神経な発言をした母を叱る権利はない。

 

妻が妊娠してから、できるだけ無神経な発言はしないように心がけるようになった。それは妻だけじゃなく、多くの妊婦に対して心がけなければと思うようになった。優しくなるということは色々と感じ、知ることから得られるものかもしれない。

 

マタニティーマークに気がつくのが早くなった。妊婦もそうだけれども子連れの人が近くにいるときには極力気をつけるようになったし、何かあれば手伝えるようにしていた。こういうことを何の体験もせずにできる人は素晴らしいと思う。僕はいちいち経験しないと分からない人間だ。子供の頃にある漫画のサイボーグキャラの名前をあだ名としてつけられたこともある。「友情インプット完了」それが僕に与えられたセリフだ。

 

妻はいろいろと情報を集めてくる。

 

妻が近所の歯医者に行ったとき、問診票に妊娠中と書いたからだと思うが、歯医者さんからおすすめの産院を紹介された。ネットで調べてみるとホテルのような設備に、美味しそうな食事、アロマテラピーやらなにやらと想像していた産院とは大違いだった。

 

母から聞いた産院のことを思い出した。北海道の寒い地域の産院で、偶然なのか分からないが、生まれたのは僕だけだった。誰もいない大部屋に母は一人いたという。父は出稼ぎで東京に行ったまま、身寄りもない、孤独な大部屋には猫が侵入してきたらしい。母は猫が嫌いだった。

 

それが僕の産院のイメージだった。猫がいる。

 

妻と産院に見学に行った。とても混んでいた。待合室には陣痛室やら分娩室、産後の部屋などのパンフレットがあって、食事のメニューもおいてあった。

 

「なんだかすごいセレブな産院だよね」

 

少しお金のことが気になりながらも妻に言ってみると、普段から、こういうセレブな趣味に対して否定的な妻はやはり、セレブな産院に対して否定的な見解を示していた。

 

「別にこんなところじゃなくてもいいんだけどね」

 

と言いながらも、何度も食事のメニューを見ていた。

 

妊婦健診もそこに通っていた。家からも歩いていける距離だし、駅も近い、僕も慣れた場所ということもあり、立地的にもこの産院がいいと思った。多少お値段がかかるにしても、そう何度もあることじゃない、ということで、なんだかんだと僕はこの産院が気に入っていた。待合室の広い。また付き添いの男性たちも立っている妊婦を見つけると誰に言われることもなく自然に席を譲るような雰囲気も良かった。

 

たまに思うのだけれども、妊婦健診や乳幼児の健診などで、付き添いにくる男性や身内の方がいる。他の妊婦や抱っこしているお母さんやお父さんが座る席もなく立っているのに、付き添いの人が座ってスマホをいじっていたりすることがある。彼らは優しくなるための知恵を得ることができなかったのだろう。

 

その産院は、そういう意味でスマートな人が多かった。さすがセレブ産院だ、これが民度というものか、などと日頃荒くれた場所をふらついている僕には少し眩しい感じすらした。

 

健診に何回か通った。説明が丁寧な担当の女医さんから少しお話があるということだった。妻の既往歴に関してだった。

 

「この産院だと万が一のことがあった場合に対応できないので、他の総合病院での出産をおすすめします」

 

妻はハイリスク妊婦ということだった。それは妻も分かっていて、過去に大病を患ったことから出産に対しても不安があった。仕方ないことだし、総合病院も家から近い。どちらかというと、総合病院の方が家から近いし、何かあるかもしれないことを考えれば、産院を変えるべきなのは明らかで、僕らに選択肢があるようで実際にはない。

 

しかし、ここで不思議なことが起こる。総合病院での出産ということで、総合病院に紹介状を書いてもらって、そして総合病院からは健診は産院で行うということで、紹介状が出されて、紹介された産院に行く、そして出産の前は元の総合病院に紹介状が書かれるということなった。紹介状一通につき5000円。僕は病院制度のこういうセコイ感じの金の取り方があまり好きになれない。医者のことを世間並に尊敬して考えることができないのは、こういう慣例に寄りかかった金の取り方を平然と行うところだ。

 

そんな病院制度に義憤を感じている僕のことはさておき、妻は、その後に何度も言っていた。

 

「セレブ産院で産みたかった。食事が楽しみだった。アロママッサージも楽しみだった」

 

総合病院の食事は食欲があっても残すレベルだと思った。ちなみに、総合病院の方が費用は高かった。総合病院の産科医はとても良かったし、安心して出産もできたから、それはそれで良かったことなんだけど。