「オムツのおむすび」(長女2ヶ月)
困ったことがあった。
仕事から戻ってくると、敷きっぱなしの布団の枕元に、使用済みオムツのおむすびがいくつもあった。
五個、六個、そんなところ。
妻はすっかり疲れたようで、オムツをオムツ用のゴミ箱に捨てる気力もない。僕はおどけて、「オムツのむすびがたくさんあるね」とか言いながら捨てていたけれども、オムツのおむすびは毎日生産される。
どこで聞いたか忘れちゃったけど、一人の子供が使うオムツの量は、15000個くらいになるらしい。一万五千個。途方もない数だ。オムツおむすびが15000個も現れたら部屋がパンパンになるかもしれない。
計算してみよう。横が13cmくらいで縦が7cmくらい、奥行きが2cmくらいだとして、違う、この計算じゃない。15000個のオムツおむすびで部屋がいっぱいになるってことが誇張表現がどうかを確かめたところで、目の前のオムツおむすびはなくならない。
乳幼児を1人育てるには、15000個のオムツおむすびとの戦いがある。
もっと大事な計算をしてみよう。朝から夕方までの時間で、妻はオムツのおむすびを最低でも5個か6個は生産した。これを週5回となると、30個くらいは生産している。夕方からはほとんど僕が生産者になったとしても2個か3個、その後の深夜は割と交代でやっているから生産の差は生まれない。しかし、このままでは生産者として妻は僕の倍だ。
まずいぞ、これだけ生産していたら疲弊するのは当たり前だ。倍の生産をおこなっているのだから。
オムツのおむすびといっても、おしっことうんこの差はある。原材料にうんこが入っているオムツのおむすびは貴重なはず。生産の差を埋めるためには、うんこのオムツおむすびを生産するしかない。
「うんこは全部、僕にまかせてくれ」
昔から人よりもうんこに興味を持ってきた僕のことだから、これは信頼されるアピールになるだろう。
しかし、乳児は僕がいないときにもうんこをする。しかも乳児のうんこは回数も多いし、オムツからもれたりもして大変だ。盲点だった。そして、うんこのオムツおむすびだけを捨てるようにしていたオムツ専用のゴミ箱がパンパンになりやすいからそれも二個三個と欲しいとは思うけれども、部屋が狭くなる。三段組のおむす専用ゴミ箱が欲しいところだと思ったところで、目の前のオムツおむすびには無力だ。
また計算に戻ろう。妻を元気にするためには、この生産のバランスを考え直す必要がある。15000個であるなら、半分の7500個を担当するのがお互い笑って育児をする秘訣のような気がした。しかしだ、ここで半分だけを担当しようとすると、結果、なんだかんだと生産する時間がないことを理由にバランスが悪くなるのは目に見えている。
目標10000個。これが僕のオムツおむすび生産のノルマだ。
「オムツって15000個くらい使うらしい。だからさ、僕が10000個目指す」
「何言ってるの?」
「15000円のお会計で500円しか払わないで割り勘って顔したくないんだ。10000円払って割り勘って顔する男になりたいの、ごめんね、マッチョ思考で」
僕はオムツおむすびの熟練工になっていった。