いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

あげるに困る!<上>(自閉症児篇)<すぐに何かをあげてしまう>

「いただいたみたいですけれど、お返しします」(長女5歳4ヶ月)

 

困ったことがあった。

 

最近というか、1年以上前からだけれど、長女の物がなくなっていることがあった。1年以上前の長女は言葉が増えてきたとはいえ、まだ自分の気持ちや状況説明などができず、紛失物のことを長女に聞いても分からないことが多かった。そのため、当時の担任保育士さんに長女の紛失物のことを聞いたりしていたけれども、「探しておきますね」と言うことで、その後、紛失物が出てくることはあまりなかった。

 

子供の紛失物なので、高価な物ではないし、紛失したとしても騒ぐような物であるはずもない。僕にしても妻にしてもあまり気にせずに過ごしていた。また、紛失したと思っていたら、長女の使っていない上着のポケットから出てきたり、棚の裏に落ちていたりすることもあって、そんなときには、保育園には紛失したと思っていたけれども家にあった、などといちいち説明するようにしている。

 

長女の仲の良いお友達のお母さんから、長女のカバンに手紙が入っていることがあった。手紙と一緒にヘアピンも入っていた。保育園にはヘアピンを持っていってはならないことになっている。長女にもそのことは説明しているけれども、たまにこっそりとカバンに入れていたり、上着のポケットなどに入れていることがある。登園時に身体検査をしているわけでもないので、長女がヘアピンを保育園に持ち込んでしまうことがたまにある。密輸のような状態だ。

 

そうやって密かに持ち込まれたヘアピンが、お友達の手に渡っていた。

 

手紙には、「いただいたということでしたが、もしかしたら大事なものかもしれないのでお返しします」とあった。そのお母さんは、長女が軽度知的障害で自閉症であるということを知っている。長女と仲の良い友達の親御さんには、長女が障害児であることを知らせておいて、ご迷惑やトラブルが起こった際に話がこじれないようにしておきたいということもあり、保育園の帰りに一緒に公園で遊んだときに説明させていただいた。そんなご理解もあって、長女のヘアピンは戻ってきた。

 

実際に、大事なヘアピンだったのかというと、長女にとっては大事なヘアピンだったらしい。そのヘアピンがなくなってから、家でヘアピンをつけるときに泣いていることもあった。ヘアピンが返却されてからは、家では毎日のようにつけていた。今でもそのヘアピンをつけることは多い。

 

長女は気に入っている物でも、大事な物でもあげてしまうことがある。2歳の頃も、自分の気に入っているおもちゃを、当時4歳の甥に渡して目の前で壊されたことがあった。長女は泣かずに、半笑いのような表情を浮かべていたのが忘れられない。また、そのときの甥の残酷な表情も忘れられない。子供はときに残酷だ。僕にだってそういう残酷な行為の心当たりはある。そのときの甥は残酷なことをしたかったのか、おもちゃだけでなく、長女のぬいぐるみについていたリボンも引きちぎっていた。あれはなんだったのだろうか。それまでは一番幼い存在として注目されていた甥は、長女がいることで幼い存在としての地位を剥奪されてしまったということへの反抗だったのだろうか。なかなか難しい子供心だ。

 

その頃からすれば、長女も成長してきて、大事な物とそうでないもの、何が自分の所有で、人にあげるということはどういうことか、ということは少しずつ理解してきているようにも思えていた。しかし、自閉症の特徴なのか、軽度知的障害だからなのか分からないが、大事な物をあげてしまうということがよくある。次女三女と物の取り合いみたいになることもあるけれど、基本的には長女は自分の物をあげてしまう。こだわりは強いはずなのに、所有という考えが薄いようだ。とはいえ、あげたあとに悲しくなって泣いていることもある。

 

誰に何をあげた、そしてどう思ったのか、そんなことを言葉にできるようになったのはこの数ヶ月のことだ。それまでは物がなくなっていても黙っていた。僕が気づいて、「あれないね」と聞くと、「うん、なくなっちゃったね」という感じで、どうしてないのかを長女から知るのは難しかった。

 

そんなときに、お友達のお母さんから手紙をいただいて、助かった。物が見つかったからというのではなく、長女の物が紛失しているときに、長女が誰かにあげているということが分かった、ということだ。誰かにあげているのであれば、まだいい。仲の良い友達に何かをプレゼントすることは悪いことじゃない。長女が次女三女によく何かをあげているのを見ては微笑ましく見ているように、お友達にもそうしているのかと思った。呑気なもんだった。

 

事情はもう少し複雑だった。

あげるに困る!<中>(自閉症児篇)に続きます。