「帰国」(長女2歳5ヶ月、双子4ヶ月)
困ったことがあった。
渡米時に使うことができなかったバシネットが帰国のときには使えた。どういう経緯だったか分からない。帰国時の記憶はほとんどない。忘却は防衛本能だってどこかで聞いたことがある。きっとそうなんだろう。
ぼんやりと覚えているのは、帰国のときには何がなんでもバシネットを手に入れてやる! という意気込みがあったこと。
三人を抱っこするのは無理。たまにしている。
双子用の抱っこ紐というのがある。そこに双子を入れる。そして後ろに抱っこ紐をおんぶバージョンにする。行商のお婆さんを見たことがあるけれども、そんな感じだ。お婆さんに出きるなら僕にもできる、いや、でもあっちはプロだ、その道のプロだ。
渡米時、抱っこで銭を節約したのだから、プロとまではいかないにしても、銭を生むというか攻めの抱っこをしてきたじゃないか、経験済みだ、いざとなれば、お高い席に移らないで抱っこで行こう。長女はきっと席で寝てくれる。双子だけなら直行便の13時間くらいはやりきれるだろう。
長距離抱っこの覚悟はしていた。
バシネットがあった。席に二つつけた。これで眠れると思った。引越作業で睡眠不足が続いていた僕は機内での睡眠を求めていた。
無理だった。40分くらい気絶のように寝たのは覚えている。
バシネットは乳児を横にできるのでとてもいい。だけど、乳児は3時間ごとにミルクだし、オムツの交換もあるし、飛行機で落ち着かないからすぐに起きる。乳児二人を次々に相手して、空いている時間は2歳児を抱っこ。
僕が双子の世話をしているときには、疲れ果てて寝ている妻に2歳児が重なって寝ている。2歳児はどちらかにくっついてないと眠れない。
最初の方は僕がミルクを作っていたけど、キャビンアテンドさんたちが作ってくれるようになった。抱っこもしてくれて、あれやこれやと面倒見てくれて助かった。このまま数日もすれば居心地のいい場所になるだろう。
バシネットはベッドというよりも乳児の待機所のようなものだ。次の順番を待つためにそこでじっとしている。双子は長女と違ってあまり泣かない乳児だけれども、移動のストレスはあるらしく泣き出してしまうこともあった。周りのお客さんたちからの温かい視線は、席に着くやいなや、お菓子を配り、声を掛けたから得られたわけじゃないだろうけど、優しくしてもらえた。
赤ちゃんと飛行機に乗るときには周囲にお菓子を配るといい、そんな情報があった。考えると変な感じもするけれども、それはそれだ。お金でもばら撒いていたら眠れたのかもしれない。とすると、この日もまた不眠とお菓子で大金を手に入れたに等しいのかもしれない。
飛行機の移動になると、お金のことを考えてしまうのはなぜだろう。しかもいつでも儲かった気持ちになる。エコノミークラスに乗ることはファーストクラスの差額分稼いでいる、そんなふうに思っている。