いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

分娩室で困る!(東京篇)<立ち会い出産は胎盤にも会える>

「レバーが食べたい」(長女1日目)

 

困ったことがあった。

 

僕は血を見るのが好きだ。こう書くとなんだか血の気の多いストリートファイターみたいに思われてしまうかもしれないが、ストリートファイトどころか格闘技もやってないし、地下格闘場で武名を轟かせたりしたわけでもない。

 

鼻血がよく出る子供だった。鼻に指を入れすぎていたからかもしれないが、朝礼のときに鼻血を出して保健室に行くタイプだった。

 

鼻血が出ると顔を上に向けて、首筋をトントントンとチョップするというのが昭和の常識だった。しかし、保健室の先生が変わると、その昭和のやり方はしなくなった。

 

「全部出しちゃうのがいい」

 

そう言われて、洗面器を抱いて顔を下に向けて鼻血を出しつづけた。すると、妙にぼんやりした気持ちになって血が流れていくのが気持ちよかった。

 

出産に立ち会うのがいやだという男の人がいる。とにかく血が嫌いで、血を見ると気を失いそうになると言う。繊細な人がいるものだ。血を見て恍惚とするよりは共感されそうな気もする。こんな男性たちの血が好き、嫌いみたいな話は、女性に鼻で笑われると思うけど。

 

女性は血に慣れている。だから男性が血を嫌いとか好きとか言ってるのって、人体の仕組みに対して好き嫌いを表明するくらい馬鹿げたことに思えるかもしれない。こんなだから男性は馬鹿が多いという極論を導き出す人がいても仕方ない。

 

とうとう出産ということになった。一度、産気づいて病院に行き、もうちょっとだね、ということで一旦家に帰った。

 

「出戻りしちゃった」

 

妻が言うには出産の出戻りは少し恥ずかしいということだった。病院から出るときに車椅子を借りた。次に来るときは車椅子にすれば妻も楽だと思ったからだ。

 

歩いて15分ほどの病院だったから、タクシーを呼ぶより車椅子の方が早いに違いない。早いには早かったけれども、誤算があった。

 

妻が産気づいて、車椅子に乗ってもらって、出発した。いい流れだ、と思っていたけれども、家を出てすぐに長い長い坂があるのを忘れていた。知っていたけれども、歩きだとあまり何も思わなかったのに車椅子になると途端に坂が自己主張する。これ無理だ、と思ったけれども、腰やら何やらが多少おかしくなっても仕方ないと頑張って押した。坂を上がると僕も産気づいたみたいになった。

 

陣痛室で一緒に過ごした。陣痛の感覚が短くなったが、その日は産まれなかった。一旦、僕だけ家に帰って、また朝に来ることになった。家に帰るとベビーベッドとかその辺をまた掃除した。もちろんあまり眠れなかった。

 

翌朝、陣痛室に行った。妻の要望は陣痛の感覚が短くなるごとに実行困難なものになった。僕は呼吸を合わせるとともにマッサージをして声がけもしなければならない。

 

「呼吸と声がけは同時にできないよ。息を吸うときには声出せないし」

 

「いいからどっちもやって!」

 

頑張ってどっちもやった。助産師さんから、同業の方ですか? と聞かれた。プロに間違われるくらい妊婦の要望に答えていたのかもしれない。僕はたまに医者に間違われる。血が好きだからかもしれない。

 

分娩室に移ると、いろんな器具があってワクワクした。妻はそれどころじゃないから、ワクワクを出さないようにしていたけれども、質問してもいいということなので、器具についていくつか質問した。クールな感じの女医さんが笑っていた。

 

長女が生まれた。ビビった。なんだか底知れぬ感情に襲われた。感動ってやつかもしれない。妻は原始の祭りを想像していた。焚き火を中心にして太鼓がドンドコ鳴ってる気がしたそうだ。

 

後産というのがある。胎盤が出てくるやつだ。以前、通販で働いたときにプラセンタを売っていた。妻にプラセンタの話をしてクレオパトラとかそんな商品知識を披露した。当然、無視された。

 

胎盤見たいです」

 

女医さんが笑いながら見せてくれた。写真も撮った。

 

「おいしそうですよね」

 

僕がそういうと、女医さんがまた笑った。

 

胎盤見ておいしそうって」

 

プラセンタの話をしようかと思ったけれども、後で妻に怒られると思ってやめた。でも説明しないと変な人にされてしまう。でも、レバーが食べたくなるって言っちゃった。妻は何も言わなかった。