いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

新環境に困る!<6>(自閉症児篇)<新しい療育に通えるようになりました>

新環境に困る!<5>(自閉症児篇)の続きです。

 

小学校にも慣れてきた長女が、「絵が描きたい」と言い出したということもあって、僕らが日進市に来る前から目をつけていたアート療育に通うことにした。この療育は、幼児療育はやっておらず、小学校以上の支援級に通う児童が通えるところだった。家からも近く、僕らにとってはお目当ての療育でもあった。保護者の見学を済ませて、長女と体験入所をすることになった。

 

困ったことがあった。

 

体験入所のときに、長女と僕が施設のドアを開けると、利用者の児童たちがばーっと押し寄せてきた。これはまずいと思った。長女がもっとも嫌がる状況になってしまった。先生たちがちょっと放任気味なのも気になった。どうしよう、帰るって、長女が言い出すんじゃないかと心配になった。靴を脱いで、靴をどこに置くのかという話を聞いている途中だったということもあって、長女を見ると、靴を持ってオロオロとしている。先生から、指差しでそっちだよ、と指示があるけれども、ちょっとパニックになっているのか、長女は靴置き場の前でどこに置いたらいいのか分からずにいる。僕が長女の側に行くと、長女にズボンを掴まれた。長女に、ここに靴を置くんだよと言って、靴を置かせた。もうダメだろうなあ、と心の中では思っていた。

 

しかし、長女はやる気があった。どうすると聞くと、やる、と言っていた。先生から各部屋の説明を聞いたけれども、長女はポカンとしている。そしてお絵描きの部屋に入ると、「お絵描きしたい」とすぐに言い出した。でも一人では座れないようで、僕の膝の上に座ってお絵描きを始めた。多動系の利用者多いのか、僕からするとうるさい状態でもあったけれども、長女は集中してずっと絵を描いていた。絵を描いていると、二人三人と長女の周囲に人が集まってきて、長女の絵を見るようになっていった。

 

なんでこんな状況で集中して絵が描けるんだろう、思ってしまう。不思議なものだけれども、長女は、昔から、周りがうるさくても、一人でずっと絵を描いて、いつの間にか、長女を囲む輪ができているということが多かった。また、人が描いた絵も長女はじっくりと見ている。そんな風に長女は友達ができていくようだった。これまで通った保育園や療育でも、こういう長女の姿があるのか、絵を描くときの集中力はとても褒められる。

 

体験入所の時間が終わり、長女と僕が帰ろうとするときに、他の利用者たちが集まった。長女の服をひっぱったりしちゃう子もいたけれども、長女は嫌がっていなかった。「また来てね」と口々に言ってくれて、施設から出ても、窓から何人もの子が手を振ってくれていた。長女は嬉しそうにしていた。

 

「どうする? ここに来たい?」

 

「うん。お絵描きしたい!」

 

「ちょっとうるさかったよね?」

 

「パパはうるさいの嫌いだもんね。」

 

僕は長女に気を遣われていた。翌日、郵便局に寄った帰りに契約をしにいった。これも平日の利用者のいない時間だ。施設の説明などを再度受けていると、体験入所のときの騒がしさの話を先生からしだした。「いつもはもう少し落ち着いているけれど、新しい、そして一年生の子が来たからみんな嬉しくなっちゃったんです」ということだった。そうか、彼らも先輩になることの楽しさがあったのか、と思って少し安心した。新しい友達が増えるのは楽しいことだ。新しい環境が楽しいのもそういう楽しさがあるからだなあ、と妙に得心して、僕は笑顔で契約をしていた。

 

長女が新しい療育に行く日、長女からは僕も来て欲しいと言われたけれども、僕が行くとまた大騒ぎになる可能性がある。なぜか僕は子供たちに囲まれる。双子の保育園でもいつも幼児に囲まれる。犬や猫にもなぜか懐かれる。そうそう、老人たちにもよく話しかけられる。そんな僕のことを長女もよく知っているからか、やっぱり来ないでいい、ということになり、長女は一人で療育に行くことになった。子供は成長している。

 

療育の車で自宅まで送ってもらうと、長女はとても嬉しそうだった。もうお友達になったのか、車に残っている児童と笑い合っていた。療育の先生から、長女の絵のことなどを教えてもらった。長女は、とても気に入ったようだった。お絵描きをしたがっていたから、嬉しいのかと思っていたら、おやつのときに、ジュースが三種類あって選べるのが気に入っているということだった。

 

なにはともあれ、長女が新環境に順応していることは僕らにとって大きな喜びである。新しい療育に通い出してから、ますます長女は絵を描いている。そういえば、新しい療育に持っていっているクリアファイルに手紙があった。新しくできた友達たちからのお手紙だった。大好きとかまた遊ぼうなどと書いてある。長女は意外と、コミュ力が高い。