いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

醸造所に困る!(ボストン篇)<ブリューワリーの支払い方法とアメリカのビール事情>

IPAビールはおいしい」(長女1歳)

 

困ったことがあった。

 

僕はビールが好きだ。子供が生まれる前は毎日のように飲んでいた。妻の妊娠とともに少し遠慮して数日に一度くらいになり、糖尿病になってからは飲んでも一本くらいでやめるようになった。

 

アメリカのビールはおいしくないと勝手に思い込んでいた。なぜだろう。なぜか分からない。

 

ボストンに着いて適当に買ったビールがおいしかった。IPAビールと言われるビールは、ビール感が強くて、苦味が効いているのもあれば、香りが豊かなものもあって、ビール好きにはたまらないビールが何種類もあった。

 

お気に入りのビールができても、また別のお気に入りが生まれる。種類が豊富だともう何を飲んでもおいしいような気がした。

 

長女が1歳になった頃、妻が断乳をした。妻もビールが飲めるようになった。長女は夜泣きが激しく、そしてお腹も減りやすかったので、僕がミルクをあげることが多かった。そのため断乳も、断乳するぞ! と決めなくても自然と断乳する流れになっていた。

 

近所には醸造所があった。地ビールを作っている。

 

いまは日本でも小さな醸造所があって気軽に飲みに行けるところがあちこちにあるみたいだけど、僕が日本にいるときには地ビールを飲みに行くなんてのは習慣としてはなかった。わざわざ電車で1時間以上かけて飲みに行ったりしたものだった。

 

ボストンではそこらへんに醸造所がある。有名なところからそうでないところまであって、歩いて行ける近所にも2軒か3軒くらいあった。

 

よく行くスーパーマーケット、マーケットバスケットの近くにも1軒あった。食べ物は持ち込みで、ビールだけ買って飲めばいい。

 

友人たちがうちに訪ねてきてくれると、そこの醸造所に行っていた。醸造所というのは日本語だと言いにくいらしい。

 

「じょうじょーじょ」

 

妻はよくそんな感じで言っていた。「じょう ぞう じょ」だよ。

 

醸造酒の醸造だよ」

 

「じょうじょーしゅ」

 

誰にでも苦手なことはある。

 

「ブリュワリーでいいや」

 

英語になった。

 

近所のブリューワリーはとても広かった。入り口で年齢確認をして手首に何かを巻く。子連れでも問題ない。部屋の奥に広いスペースがあってベビーカーで入ってくる人もたくさんいるし、十分なスペースがある。子供が遊べるようにもなっている。今は使っていない醸造の設備も見学できるようになっている。

 

日本酒の利き酒セットみたいに、利きビールセットのようなものがあって、行く度に違うビールが味わえた。ビール好きにはたまらないものだ。

 

支払い方法に日本人は戸惑うかもしれない。クレジットカードを預けたままにするオープンという支払い方法がある。注文すると勝手に精算してくれる。オープンにしない場合は注文ごとにカードや現金を出して精算する。

 

オープンという精算方法に最初はびっくりした。意味が分からない。人にカードを預けるなんて、という気がしてしまう。アメリカこそ、そういうことに警戒心が強いのではないか、と思っていたけど、そこで不正をしてバレてしまったときの方がお店にとっては大打撃だろうから、結果、オープンは安全でもあるのかもしれない。精算するたびにカードを出している方が落としてしまうかもしれない。

 

友人が来ると、僕は得意げにオープンのやり方を説明していた。

 

カードを預けたまま、おいしいビールも飲めるし、子連れでも広々とした店内だから安心だ。困ったことは、リラックスしすぎて飲みすぎてしまうことくらいだ。

 

そしていつも飲みすぎる。

 

家の近くだからということで、多少飲み過ぎたとしてもベビーカーを押して帰るくらいはできる。車に気をつけてえっちらおっちらと帰る。家に帰って気が付く。

 

「カード預けたままだった」

 

カードを取りに行くと、醸造所の人が笑って渡してくれる。こんなことが何度もあった。醸造所は大人のテーマパークみたいなものだ。行くだけで楽しいし、楽しい気分で帰ってくる。子連れであることを忘れてはいないけど、少しだけ、ほんの少しだけ育児から解放された気になって過ごしてしまう。

 

財布を失くすとまず戻ってくることのないアメリカで、お店にカードを預けておくのは最も安全な飲み方なのかもしれない。安心しすぎるのも問題だけれども。