いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

石並べに困る!(自閉症児篇)<長女も自閉症かもしれないと思ったこと>

「石を一生懸命並べていた」(長女1歳1ヶ月)

 

困ったことがあった。

 

寒くなってきて、公園に行くのも辛くなってきた。しかし、家にずっといるわけにもいかない。大雪などで外に出られなくなる日もあるボストン。少し寒くなってきたとはいえ、外に出て遊べるうちは長女を外に出してやりたいとも思っていた。

 

家の裏には病院があった。その病院には芝生やベンチがある一角があって、誰でも利用できる場所になっていた。しかし、公園とは違い、誰でも利用ができるといっても静かにする必要はある。そのため、利用者はほとんどいなかった。通り道として使っている人が多い。

 

その場所を使うようになったのは近所で人がいないからというのがある。長女は1歳くらいから人見知りが激しくなり、公園で誰かと一緒になってしまうと泣いてしまうことがあった。特に大人の男の人が苦手らしい。

 

長女とは人がいないところを探すようにになって、この場所を見つけた。

 

小高い丘に椅子と机があり、草花や樹木もある。そこの枝を拾って遊んだりしていた。

 

地下に降りる階段があった。病院の入り口の一つだと思うけれども、そこは施錠された小屋のようになっていて、ガラス越しに中の階段が見えただけだった。どこに繋がっているのかは分からない。

 

その小屋の周囲には小石が敷かれてあった。

 

長女はその頃、石にはまっていた。歩きながら人の家に撒かれている白い石が気になって、すぐに持ってきてしまう。それを戻しながら散歩をする。

 

最初は石が好きなだけかと思っていた。僕も石が好きな子供だったし、よく並べて遊んでいた。

 

「石が好きみたいだね、まあ、僕のように並べたりはしていないけどさ、持ってきちゃうよね」

 

そんなことを妻と話していた。

 

ベビーカーにはよく石が入れてあった。どこかで拾ってきた石に僕や妻が気づいて、ベビーカーの飲み物ホルダーに入れておいて、後で戻しにいくからだ。

 

長女が石を持ってきて、それを返すということが習慣のようになっていた。

 

例の場所は長女のお気に入りになった。そこの石を一生懸命拾っている。ずっと石で遊んでいるから僕も楽だった。よく見てみると、石は綺麗に並んでいる。

 

石を並べ始めた。

 

自閉症によくある「並べる」行為。僕もよくやっていた。子供の頃の僕の写真には、おもちゃの車を並べて、間に自分もおさまっている写真がある。人からは可愛い写真と言われる。僕は並べるのが好きだったし、並べた物と一緒になりたかった。岩波文庫などが好きなのは、番号があるからだ。

 

長女もよく並べていた。まだ、この頃は、自閉症という診断もされていなかったし、言語の遅れにしても、少し遅れているなあくらいのものだったが、もしかしたら、と思うようになっていた。

 

長女が石を並べるようになったことと、僕が子供の頃、石だけじゃなくいろいろな物を並べていたことなどを妻に話していた。

 

妻は長女の発達のいくつかのことを気にいていたので、この並べる行為も気になるものになったと思う。もちろん、僕にしても、自分の奇癖のようなものだと思っていたのが、調べれば調べるほど自閉症の症状でしかなかったことにだんだん気づいていった。

 

学生時代に僕のことを「自閉症」とか「自閉症スペクトラム」とか「アスペルガー症候群」という人がいた。医師の診断を受けようともいなかったし、まあ、そんなのもあるだろうと、思い当たる節もたくさんあったけど、薬があるわけでも、何かあるわけでもなかったし、そもそもまともに就職もしようとも思わないし、その当時は結婚する気も、子供も欲しくなかったというか、社会的不適合者であることに僕本人はそんなに問題を感じていなかったということもあって、そのままにしていた。無力な子供時代とは違って、どうにか生きられるだけで十分だと思っていた。

 

大人の自閉症、アスぺが最近では話題になっている。苦労している人もいるだろうし、辛い人もいるだろう。ただ、なんていうのか、僕はそんなに辛くない。便意に気がつけずに漏らしてしまったりしても、週5の勤務ができなくても、突然のフラッシュバックに数日間ほとんど睡眠が取れなくなることがあっても、あんまり気にしていない。昔の方がひどかった、子供時代の方がひどかった。助けや理解が必要なのは子供時代であって、もうだいたいのことに諦めを覚えてしまって、そして諦めを飼い慣らし、諦めと遊ぶようになってしまった僕には、助けもあんまりいらない。理解すらあまり必要ない。楽しんでくれればいいやくらいに思っている。

 

長女の行動は僕に似ていた。発語に関しては違うけれども、自閉症スペクトラムにも多様性は少しはある。ただ、石を並べたり、突然癇癪を起こしてしまうことは似ていた。僕は3歳から6歳にかけて、癲癇でよく倒れていたから、それが心配になった。大人になってからでも、過度なストレスがかかると、夜中に呼吸ができなくなって倒れそうになる。そのときにいつもとうとう死ぬのか、とか思っている。

 

石を並べる長女はとても満足そうだ。

 

警備員の方が来た。長女は知らない男の人が怖いはずなのに、石並べに集中して気がつかない。警備員さんもニコニコして長女の石並べを見ていた。ふと、長女が警備員さんに気がついて笑顔を向けた。そしてまた石並べをした。

 

「ここの石で遊んでてもいい?」

 

そう僕が聞くと、警備員さんも嬉しそうに頷いて去って行った。

 

長女はそのあと2時間以上、石を並べていた。僕も参加して、この石がかっこいいとか言って、長女の助手を務めていた。