いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

さくらんぼに困る!(自閉症児篇)<何があったのか教えてください>

「子供同士でよくあること」(長女2歳6ヶ月)

 

困ったことがあった。

 

長女が通っている保育園には、園児1人1人に食べ物や動物のマークが割り当てられている。このマークは園児が選ぶものではなく、入園したときに決まっていた。

 

長女は金魚のマークで可愛らしいけれど、長女は金魚に対して思い入れもなく、「おさかな?」くらいに思っていたのだろう。発語できる言葉も増えてはいたけれども、「金魚」はまだ言えなかったし、僕らも普段から使う単語でもなかったので、長女に教えることができていなかった。

 

長女はクマのマークやどんぐりのマーク、さくらんぼのマークがよかったみたいだった。「クマちゃん」「ドングリコッコロ」「サクランボッボ」と言っていた。最初は何のことか分からなかったが、妻に聞いてみると、保育園での長女のマークのことだった。

 

「金魚だよ、おさかな、かわいいね」

 

「キンギョ?」

 

「キンギョ」

 

納得したようなしないような顔をしていたが、自分のマークが金魚であることは分かったようだ。僕は保育園に長女と一緒になって金魚のマークを何度もなでなでしていた。

 

3歳くらいの頃、少しずつだけれども、発語も増えてきた。友達の名前はまだ言えなかったが、「オモチサン」と言うようになっていた。

 

その後しばらくしてから、長女のにとっての言語の爆発が起こるけれども、いまはまだ停滞期で、言われていることもよく分からないこともあって、お迎えに行ったときに、保育士から頭ごなしに叱られているのを見た。

 

「うちの子は自閉症知的障害者だという話は保育園で共有していないのですか? 言葉で頭ごなしに叱っても伝わらないだけで、辛い思いをしているということは分かりませんか? 入園手続きのときに加配申請もして、加配担当の人もいると思いますが、どうなっているのですか?」

 

僕がそういうと、そそくさといなくなってしまった。注意すると無言でいなくなる。そんな人が多い地域だ。

 

入園時から、加配制度や障害児への対応をめぐって面談をしていたけど、いつも「子供はみんなそう」とか「自閉症は3歳から診断される」という例の紋切り型で対応されてしまって、合理的配慮を考える気はないようだった。また、のちに分かることだが、入園時の説明でとある保育士は僕らに嘘をついていた。かなり揉めた後に謝罪があった。そのことはまた別に書くことにする。

 

このときは、東京での保育園での経験もあり、なんだかんだと子供に向き合ってくれるだろうという期待もあった。しかし、何かおかしいくらいには思うようになった。

 

長女は感覚過敏があって、長袖や長ズボンを嫌がる。寒いだろうと思って長袖にしても肩までめくってしまうし、長ズボンも太ももの付け根まで捲り上げる。たまに捲り方がよくなかったのか、腕や足の付け根が締め付けられて、長女は痛がっている。そのため、半袖、半ズボンが多くなってしまうのだけれども、寒そうにしている長女を見ているのは親としてはつらい。

 

新しい服を買いに行く。

 

長女は服が好きだ。服を買いに行くと喜んでいる。とくに試着が大好きで、自分で選んだ服を試着室で着ると嬉しそうにする。

 

まだ少し寒い時期だったということもあったが、長ズボンは嫌がるので、半ズボンよりは少し長めで、スカートがついているタイプのものを買うことにした。ベロア生地で、赤いさくらんぼが全体に散りばめられている。

 

「サクランボッボ!」

 

長女が嬉しそうに言っていた。家に帰ってもお気に入りのようでなかなか脱がなかった。水通しをしたいと思っていても、脱いでくれない。

 

「明日、保育園はさくらんぼさん履いていく?」

 

「いくー」

 

このくらいの言葉はなんとなく分かるようになっていたので、少しは意思疎通も楽になってきた。お気に入りのズボンが見つかってよかったし、これなら太ももまでまくりあげない。

 

翌日、さくらんぼのズボンを履いていった。嬉しそうに保育園の部屋にも入っていった。

 

お迎えに行くと、保育園に用意している替えの長ズボンを履いていた。太ももまで捲り上げて付け根には跡がついている。保育士さんに聞いてみた。

 

「突然、ズボンを脱ぎ出して、履いてくれなくなっちゃったんで、替えの方にしたら履いてくれました」

 

長女に訳を聞いても、もちろん何も言えない。家に帰る途中に長女が泣き出した。保育園で嫌なことがあると、門扉を出てから大泣きすることがある。

 

双子も連れているのでその場ではどうにもできない。双子と長女の3人を抱っこしながら家に帰ると、通りすがる人が「すごい」とか言っているのが聞こえたが、こっちはもう必死だ。

 

家に帰って、訳を聞いてみる。「オモチサン」「サクランボッボ」「ダメ」というのが分かった。一つ一つ繋げてあれこれ考えてみると、どうやら、サクランボは他のお友達のマークだから長女が履いちゃダメと言われた、ということだった。

 

翌日、保育園で聞いてみると、数人の子供たちが新しいズボンを履いた長女を取り巻いて、何やら言っていたということだった。

 

「子供同士だとよくあることですよ」

 

それはよくあることだろう。よくあることだろうけれども、少し膝を擦りむいたり、噛み跡があったりするとお迎えのときに大袈裟に謝りにきたり説明したりするのに、なぜ、こういった心の問題は「よくあること」で済まそうとするのだろう。擦り傷などの方がよっぽどよくあることだと思うし、そんなことで保育園を責めたことなど一度もない。逆に、保育園で軽い怪我をしてくれて、体で覚えてくれてよかったと思っているくらいだ。

 

「子供同士でよくあることかもしれませんが、うちの子は、知的障害だなんども言っていますよね。自分で何も言えないんですよ。ですから、何があったのか教えていただけないと、その後の対応もできなくなってしまうんです。そのために加配申請もしておりますし、お手数おかけして申し訳ないのですが、ご配慮もお願いしているのですが」

 

「あ、はあ」

 

と、保育士さんは、モンペを目の前にした人のような呆気にとられた顔をしていた。。

 

子供同士でよくあること。しかし、それが発達障害自閉症児、知的障害児が相手の場合はよくあることで笑ってすましていいのだろうか。あってはならないこと、と言っているのではなく、どのようなトラブルがあったのか教えてもらわないと、その後の対処ができないと何度も言っているのに、それ伝わらない。原因が分からないままで、フォローできないと、大泣きはやまないし、夜泣きもある。そして登園するときにも泣き出してしまう。

 

子供同士だといろいろなことがある。それはこっちもわかっているし、保育園に通わせているのだから、トラブルが起こるのだって当たり前だと思っている。しかし、何があったのかということくらいは説明してほしいと思う。保育園じゃないとできない経験もあるし、それが長女の発達にはプラスになっているのは実感している。過保護の扱いをされてしまうけど、何があったか教えてもらうくらいは求めてしまう。

 

余談だけれども、さくらんぼ柄のベロアのズボンはもう二度と履かない。双子とお揃いで着ていたさくらんぼ柄のパジャマも着なくなった。今はプリキュアのパジャマを着ている。

 

その後、保育園とのやりとりはさまざまな関係機関を巻き込む事態に発展していってしまった。