いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

早とちりに困る!(再東京篇)<僕は迷惑なやつかもしれない>

「誘拐かと思って奮闘してしまった」(長女3歳1ヶ月、双子1ヶ月)

 

困ったことがあった。

 

何かあったらその場で動けるような男になろう。僕は常々、そんなふうに心がけている。常在戦場というのは行き過ぎだけれども、突然の出来事を前に咄嗟に体が動くというのは慣れというのもあるけれども、心持ちが大事だと思っている。

 

目の前で人が倒れたらすぐに助けにかけよったりするのも、日頃から動けるようにしていないとなかなかできることじゃない。信号や一時停止を守らない自転車や自動車に反応できるように横断歩道で自分の進行方向が青だとしても周囲を確認することなども、突発的な出来事に対応するためには必要なことだと思っている。

 

友人から、僕はよく困っている人を助けていると言われる。助けたというほどじゃないと思っていても、自動改札の後ろで切符を入れるところにお札を入れようとしてピンポーンと音が鳴ってしまった酔っぱらいに気づいて、「入れようとしているのお金ですよ、切符買ってこないと」と説明するのも人助けにされてしまっては、人助けもなんだか安くなっているような気もする。

 

しかし、こうしたささいなことでも、日頃から、見ず知らずの人に話しかける準備をしておかないと気がついたとしてもできないことなのかもしれない。

 

子供を連れていると、人に話しかけられることは増える。長女1人を連れているだけでもよく話しかけらるけれど、双子となると毎日のように誰かに話しかけられる。同じ時間、同じ道を通っているのに、毎日違う人に話しかけられるのだから不思議なものだ。

 

人に話しかけられるということと、人に話しかけるというのは正反対な気もするが、人に話しかけられたとしても、それに対して応答する場合は、やはり人に話しかけることになるんじゃないかと思う。

 

子連れだと話しかけられることに慣れる。そして子連れ同士は目があったら会釈したり、たまに「何歳ですか?」とか「何ヶ月ですか?」などという会話になることもある。たまに、会釈をしてもツンとしている人もいるし、話しかけるとキマリ悪そうに足速に去っていく人もいる。いま住んでいる地域は同じ保育園だからと挨拶をしても目を下に向けるお父さんが多い気がする。

 

話しかけられ、話しかける、というのは常在戦場のような、すぐに動ける体を作るためのトレーニングになっていると思う。もし、常在戦場のような武士に憧れている人がいたら、武士は黙って人を斬るとかに憧れていないで、フレンドリーな挨拶という刀を抜いた方がいいと思う。

 

そんなこんなで、挨拶して挨拶されることによって、鍛えられた僕のサムライ的な状態はいざというときに動けるわけです。

 

保育園のお迎えの時間になった。その日は雨が降っていたので、双子用のベビーカーに雨具をつけて、僕は傘をさしていた。そういえば、雨の日はあまり話しかけられない。

 

迎えに行く道はいつも決まっていた。うちと保育園の真ん中あたりの人通りの少ない道にさしかかったとき、旧車と言われるものだろうか、昭和に愛されたような車が徐行していた。傘を刺した小学生くらいの女の子が横を歩いている。

 

「乗りなよ、雨降ってるんだから」

 

「やだ、やめて!」

 

運転手は、助手席の方に手を伸ばして、助手席のドアを開けたまま徐行している。女の子は早足になって車から距離を取ろうとしていた。

 

これは誘拐だ! と僕は判断し、双子のベビーカーを手に持ったまま車に近づいた。車は止まらず徐行のままだった。僕が近づくと、女の子が走って逃げていった。車も速度を上げようとしたので、「コラ、何やってる」とか大声を上げて僕が追いかけると、車は真っ直ぐに去って行った。女の子は僕が来た道に曲がって行った、車とは別方向に行ったことを確認した。ナンバーを確認しようとしたけれど、メガネが雨の水滴で濡れてしまってよく見えなかった。ただ、この辺の地域のナンバーではないことはボンヤリとだけれども分かった。他県のナンバーだった。

 

車が行った先の丁字路まで追いかけた。もしかしたら、その辺で止まっているかもしれないと思ったからだった。女の子が去った付近まで車が来ていないか確認をして、警察に電話した。

 

「警官が現地に行きますので、待っていてください」

 

「これから保育園のお迎えなので、20分後に現場で待ち合わせるようにできますか? あと、付近に〇〇ナンバーの旧車がうろついていたら注意してもらえますか?」

 

と話し、保育園に迎えに行った。

 

双子を乗せて、事件現場で警察官と話した。分かる範囲で話したけれども、咄嗟に動ける体と冷静な頭というのは別らしく、少し興奮気味で話してしまった。2回3回と同じことを聞かれるので、雨の中だし、もう寒いし、子供が心配になってきた。

 

「何かあったら電話してくだされば結構なので、帰らせてください。雨の中、子供が冷えちゃうので、こんなに面倒だと通報したくなくなっちゃいますよ」

 

とか余計なことを言ってしまった。家に帰って双子を仕事帰りの妻に受け渡して、長女の保育園にお迎えに行った。僕は少し興奮していた。

 

1時間くらい経った頃だろうか。警察から電話があった。誘拐犯が捕まったのかと思ったら、誘拐犯はそもそもいなかった、と言いますか、誘拐犯だと僕が思った人は、その小学生のお父さんだった。

 

「そのお父さんも誤解を招くようなことをしてしまったと言っていました」

 

早とちりをして誤解して、大声で叫んで、警察まで呼んで、しかも警察官に嫌味まで言った僕が一方的に悪いわけなんだけれども、なんだか気を遣われてしまった。

 

「でもさ、それだけ近所の人が子供の心配をして動いてくれるって思えば、きっとそのお父さんも感謝しているよ」

 

と妻からフォローされたけれども、そのお父さんと娘さんには申し訳ないことをしてしまった。次に会ったら謝ろうと思っていながらも、僕はお迎えのルートを少し変えた。