いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

昔はワルだったに困る!(再東京篇)<話せばわかってもらえると思っています>

「暖かくなると増えてくる」(長女2歳7ヶ月、双子6ヶ月)

 

困ったことがあった。

 

長女に比べると双子は育てやすい子供たちだった。夜泣きをすることもあまりなく、ミルクの飲みは相変わらず悪かったけれども、時間をかければちゃんと飲むようになった。そしてミルクを飲めば朝まで起きることは滅多になかった。

 

そんな双子でもなかなか寝付けないこともあったり、夜の0時くらいに起きることもあった。深夜に起きたとしても、オムツ関係のことだったりしたので、オムツを替えればまたすぐに寝てくれた。親に優しい子供たち。

 

ちょっと暖かくなってきてからだろう。住んでいたUR住宅の中庭のベンチに座って電話している人がいた。たまにそういう人がいたけれども、だいたいはその日限りのもので、それも1時間といることもないから、あまり気にならなかった。

 

しかし、その人は、夜10時から深夜1時くらいまで、毎日、電話をしている。その時間は、双子にミルクをあげていたり、寝かしつけているときだから、ちょっとうるさいなあ、と思っていた。窓を閉めれば少しは軽減されるけれども、5月の終わりあたりは窓を開けていると気持ちがいい。

 

なぜ、その人のために僕が窓を閉めなくちゃいけないんだ? そんな気持ちになった。

 

2週間経って、次の週の月曜日、またその人はやってきた。

 

「俺もあの人からは、昔、さんざん悪いことを教わったからなあ」とか「俺だって、ずいぶんやったからなあ」とか、そんなことを毎日話している。電話の相手も酔っ払って武勇伝?みたいなことを聞くのもいやだろうに、よく付き合うものだ。

 

僕も懲りずに窓を開けていたので、その人のことはなんとなく分かってきた。会社か何かの後輩を励ましている感じだったし、真面目に生きている人だと思ったし、コロナであまり飲みにいけなくなってしまったから、手頃なベンチで缶ビールや酎ハイを飲んで、居酒屋でよくある話をしているだけなんだ。

 

居酒屋でいろいろな人と話していると不思議に思うことがある。会社や仕事の愚痴を多くの人は言うのだけれども、だいたい使えない上司と部下や理不尽な取引先の話で、自分は仕事ができる、真面目にやっている人ばかりだった。いつかは話に聞く使えない上司や部下、理不尽な取引先の人にも会えるかと思っていたけど、居酒屋にはそういう人はあまり来ない。僕は結構、使えない上司や部下だったので、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 

彼の事情もなんとなく分かったけれども、ミルクを飲んでいる子供が彼の笑い声でびっくりしたりするし、抱っこしてトントントンと寝かしつけを初めているときに、「俺もワルだったからな」みたいな話で声のする方に子供の注意がいってしまったり、せっかく寝た長女が起きてしまったり、とかそんなことがあると、ちょっと注意をした方がいいような気がした。

 

僕の地元ということもあったので、話せばだいたい誰かに繋がるだろうと思っていた。話の内容からももしかしたら同級生とかかもしれないとか、そんな期待もあった。

 

双子を寝かしつけて、午前0時。まだ大声で話している。僕は外に出た。

 

「ねえ、お兄さん」

 

「うわっ、びっくりした!」

 

思ったよりおっさんだった。50歳くらい。

 

「ごめんね、びっくりさせて、あのさ、ここ、大声で話すと結構、響いちゃうんですよ。今日だけとかなら何も言わないんだけど、もう2週間も昔はワルだったみたいな話をしちゃってるでしょ、そんな話を毎日聞かされてると、何してんの?ってなっちゃうからさ」

 

「すみません」

 

「もういい年なんだから、大声で恥ずかしい話なんかしちゃうと、この時期は窓開けてる人も多いから、全部聞こえちゃってますよ」

 

「わかりました。もうしません」

 

いつもゴミをそのまま捨てていくおじさんだったけれども、空き缶も吸い殻も集めて帰っていった。

 

僕が中学生や高校生の頃は、0時くらいになって団地の下とかで話をしていると、怖いお兄さんがやってきて、怒られたものだった。あのときは、あんただって昔はやってたろ、とか思っていたけど、よく考えてみれば、あの怖いお兄さんも育児をしていたり、朝早い仕事のために寝ようとしていたりしてたんだと思う。

 

今回は、予想外のおっさんで僕もびっくりした。コロナの影響はこんなところまで広がっている。その後も、そのベンチは多くの若者に愛されるので、入れ替わり立ち替わりお話している人はいたけれども、習慣のように毎日来ていたのは、そのおっさんだけだった。

僕も1日2日なら注意はしなかったと思うけれども、あのおっさんからすれば、僕は怖いおっさんになっちゃったのかもしれない。