いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

オイルクロスに困る!(主夫篇)<扱いに困る服はなんだか愛おしい>

「オイルティンクロス(Oil Tin cloth)を洗濯する」

 

困ったことがあった。

 

アメリカで出会った服に、オイルを服に塗った防寒用のアウターがあった。お店の一角に古臭い感じのコーナーがあり、そこには、オイルに塗れたジャケットやコートがたくさんあった。

 

日本でも人気のオイルドジャケットのバブアー(Barbour)もあったけれども、僕が惹かれたのは、古き良きアメリカな感じがするフィルソン(Filson)というブランドだった。フィルソンについてはまた書くこともあると思う。

 

ジャケットやコートにオイルを染み込ませて、あるいは表面に塗りたくって、雨風を防ごうという考えは、さまざまな繊維などが生まれている現在から見れば、ベトつきや臭い、そして洗濯ができないなどのデメリットばかり目立つ。困る服だ。

 

メリットといえば、着るのが楽しい、というくらいしか僕には分からない。

 

実際、これらのオイルドジャケットを着て外を歩くと楽しい。時代錯誤な感じがなんともいえない。とはいえ、ネットで見ると、オイルドジャケットで電車に乗ってくるな、みたいなのがある。迷惑な服でもある。

 

ボストンで2着ほどオイルクロスを買った。メンテナンスの方法は、ブラシをかけるか、硬く絞った布で拭くくらいしかない。ブラシを使ったあとはブラシの表面が油っぽくなるので、ブラシも拭く。

 

育児をしていると服は汚れる。鼻水がつけられることは日常だし、泥だらけの手を擦り付けられることもある。汚れた靴のまま抱っこをせがまれ、靴の汚れが服に付くなんてのはよくあることだ。オイルドジャケットは洗濯できないから、育児に適さないようにも思えるが、子供の汚れ程度は、布で拭けば取れる。でも、僕は育児のときには着ない。

 

フィルソンのジャケットは、チェーンソーが跳ね返ってきても大丈夫だった、牛に引き摺られても平気だったとかいろいろと逸話がある。Tin clothという名が示すように、ブリキのような頑丈さだ。メンテナンスをあまりしていないハードなままのTin clothのジャケットは自立する。

 

オイルドジャケットは取れなくなった汚れの上からまたオイルを塗ることで、独特の汚さの美学と言いますか、労働者のために作られた服という出自が示すように、年季の入った汚さは、熟練であることを示すということで、汚さがカッコ良く見えるという不思議な現象もある。

 

けれども、僕は汚さずに着ている。育児の汚れすら嫌がって子供といるときには着ない。子供の鼻水や、チョコレート、ジュースなどのシミの上からオイルを塗ったら、お父さんの美学もできるかもしれない。公園に行って他のお父さんから、熟練パパだな、と思われるかもしれない。でもやらない。

 

そんなフィルソンの美学から離れている綺麗好きだけれども、十年以上前に発売されたモデルが欲しくて、ネットオークションで買ってしまった。合うサイズで綺麗な状態のものがないので、仕方なく汚いものを買った。2年探して、サイズが合うのは一度しか見つからなかった。そのときは競り負けた。

 

臭かったし、カビも生えていた。

 

羽織ると気持ち悪くなった。

 

汚れの美学はカビの美学とつながるのか、オイルのすえた臭いをいい匂いだと思えるようになるには、僕はまだまだ未熟だった。

 

洗濯表示はない、タグに洗濯への注意くらいは書いてある。何やってもダメらしい。手洗いも、洗濯機も、つけ置きも、ドライクリーニングすらダメだ。ネットで調べると、クリーニング屋さんによっては、オイルが抜けても構わないという条件で汚れ落としなどをやってくれるところもあるらしいが高額だ。

 

自分でやることにした。オイルを抜いて、そのあとでオイルを入れる。これだけのことだけれども、数日がかりになる。

 

オイル抜き。布を痛めないように、弱い方のオキシクリーンに一晩つけた。汚れは結構取れたけれども、オイルは抜けていない。

 

作業着用の洗剤に30分つけおき。これを2回。

 

だいぶオイルが取れてきたので、バスタオル3枚と一緒にして洗濯機で洗った。洗剤は作業着用。そして干した。

 

またオキシクリーンに一晩つけた。汚れはあまりでなくなっていた。カビはもうなくなっているようだった。

 

次は、デリケート衣類専用の洗剤で、デリケート洗いをかけた。作業着用の洗剤の匂いが苦手だったからだ。そしてその日も干した。

 

外干しと部屋干しを二日ほど行った。

 

オイルというかワックスを塗った。ワックスを塗るのは夏場が推奨されているけれども、冬に行った。アメリカでは秋を推奨している人もいたけれども、アメリカの気候なんて場所によってぜんぜん違うのだから、季節はあてにできない。

 

ワックスが固まりにくい温度で、ドライヤーで馴染ませられる環境であれば、ワックスを塗り込むことはできるってことだろうと思った。

 

2時間の格闘。はじめてのことだから段取りが悪くて手間取ったけれども、楽しい時間だった。手がベタベタなので、何度も手洗いをした。ドライヤーのとっても拭いて、作業中に触ったところはくまなく拭き上げる。これをやっておかないと、妻からオイルドクロスの文句を言われてしまう。

 

オイルドジャケットは、使い勝手も悪いし、メンテナンスにかかる時間は異常だ。いいことなんてほんとない。単に困る服だ。だけど、こうして時間をかけて、あれかこれかとやれることが面白い。また、汚いオイルドクロスが欲しくなった。次はもっとうまくやれる気がする。