いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

倉庫で困る!(東京篇)<倉庫には魔物が住んでいる>

「レンタル倉庫にトイレはない」(長女4ヶ月)

 

困ったことがあった。

 

僕は若い頃から本が好きで、毎月たくさんの本を買っていた。10年も本を買い続ければ、部屋から本が溢れるとか床が抜けることは本好きを悩ませる。住環境次第で本を買う量は減る。

 

妻と結婚する前、僕は広い家に住んでいた。そこでは書斎と、小さな書庫があったので本の置き場には困らなかった。諸事情があって、そこから出ると、まずは本をどうするかというのが問題になった。

 

妻と住んだ部屋はとても狭く、妻も仕事柄本が多いので置き場所に困った。しばらくの間、僕の本は元いた場所に置かせてもらっていた。一層、全部処分してしまおうかとも思っていた。

 

若い頃からコツコツためた本は僕の青春が詰まっている。売ってしまって他の誰かに読んでもらえるのならそれでもいいけれども、中には手放してしまったら簡単には手に入らない本もある。簡単に手に入りそうな本は手放した。

 

妻が妊娠し、そして渡米の日が近づいてきた、本は処分するにしろ時間と労力もかかる。古本屋さんにまとめて引き取ってもらうことも考えたけれど、いまのご時世、二束三文で買い叩かれるのはあたりまえとしても、そもそも引き取ってもらえないこともあるらしい。めぼしいものだけピックアップされるくらいなら、最初から売りはしない。稀覯本なら時間をかければ僕にだって高く売ることはできるだろう。

 

本を処分するのは保留にした。

 

レンタル倉庫とかレンタルルームを借りることにした。都内は賃料が高いから少し郊外にして、野外型は本の大敵である埃や湿気が怖いので室内型の空調完備のところにした。

 

賃料はそこそこ高い。3畳くらいで月2万円は超えていた。アメリカには二年だから24ヶ月以上は倉庫に置くことなる。サービス月間とかなんとかで、最初の三ヶ月くらいは半額になった。

 

レンタル倉庫には満足している。二年間預けていても、本は綺麗だったし、他の物も傷んでいなかった。湿度も申し分なかった。革装丁の本は古本で買ったときから状態はあまり良くなかったから、変化もよく分からない。

 

そんな大満足の室内型倉庫なのだけど、一つだけ不満があった。それは作業していると、どうしても生理現象が起こることを想定にいれていないこと。本屋さんに行くとトイレに行きたくなるようなものだ。

 

積み込むときには運送会社の方と一緒にやった。とてもフレンドリーなところで、三人協力してどうにかギッチギチになりながらも収まった。

 

僕には妙な才能があるらしく、どのくらいの物がどのくらいの空間に収まるかが分かる。そのときも運送会社のおじさんとお兄さんから、「これ無理ですよ」と言われたけれども、入ると思うと思っていた。これはもしかしたらただの願望だったのかもしれない。

 

「お子さんがいたら、どんどん荷物増えますよ。うちの子の絵とか工作が捨てられなくて、どんどん溜まっちゃってるんですよ」

 

運送会社の兄ちゃんがそんなことを言っていた。育児先輩の微笑ましい困りごとを聞いて僕も子供の成長を考えた。

 

「子供のためにレンタル倉庫借りようかな」

 

兄ちゃんは本気だった。その子が大きくなって、倉庫いっぱいに小さい頃からの絵や工作が詰まっていたらどんな気分だろう。嬉しいのか、それとも、めんどくせって思われるのか。倉庫借りるお金があったらお小遣いにしてほしいとか言われそうな気もした。

 

そんなこんなで、大変な詰め込み作業も終わり、運送屋のおじさんと兄ちゃんに別れを告げた。もう少し作業をしてから、ワンオペ中の妻の元に帰ろうと思っていた矢先、生理現象が来た。

 

生理現象というのは不思議なもので、作業をしていたり、人と話しをしているときにはうっすらとしか感じていなかったのに、中断したり、人と別れると急に襲ってくる。

 

倉庫の中にはトイレがなかった。パニクってくると余計なことを考える。加湿器には給水タンクがある。ここにすれば被害は少ない、とか思って加湿器を出そうとしても、他の荷物に塞がれて難しそう。ここはやっぱり外でトイレを探すしかない。

 

急いで外にトイレがないか探した。

 

少し遠くに公園がある。公園ならトイレがあるだろう。しかし、もしなかったら、と思って、お店らしきものを探すことにした。歩道に光が漏れているところがお店に違いない。僕は漏れそうだ。

 

熱帯魚屋さんだった。そのときは焦っていたのか、熱帯魚屋さんにはトイレがないと思ってしまった。熱帯魚にトイレは不要だろうと思ったからだ。

 

もう少し歩くと定食屋さんがあった。閉まっていた。

 

洋服屋さんがあった。古い服を扱ってそうなところだったが、ここも閉まっている。小さい店だし、開いていたとしてもトイレを借りることは難しそうだ。神保町の古本屋でトイレを借りようとするようなものだろう。一度貸してもらったことがある。

 

もう少し行くとコンビニがあった。都内ではトイレを貸してくれないコンビニもある。切羽詰まってトイレを借りたいというと、借りることができた。

 

荷物の容量は把握できるのに、尿の容量はなぜ把握できないのだろう。

 

レンタル倉庫にはトイレが欲しい。アンケートに「トイレが欲しい」と書いた。