「組み立てられないベビーベッドと釘の出ている部屋」(長女1歳)
困ったことがあった。
妻の仕事でペンシルバニア州フィラデルフィアに行った。日本であれば妻の単身出張になったと思うけど、せっかくアメリカに来たのだから他の都市も行ってみたいということで、子供を連れてついて行った。
フィラデルフィアは有名な街だ。アメリカの独立と深く関わる都市なのはボストンも同様だけれども、フィラデルフィアには自由の鐘とか言うのもある。妻が仕事に行っている間に、娘をベビーカーに乗せて見に行ってみた。
とても混んでいて子連れで突入するのは無理だった。アジア人がたくさんいた。
しかたないから公園をぶらぶらしていた。街の中は程よくごちゃごちゃしている感じで、なんだかこの街が好きになれそうな気がした。
市場に行ってみたかったけれども、ベビーカーを押して入れるところかよく分からなかったので行かなかった。市場というと、築地とかそういうイメージがあって、子連れで行くと大変なような気がしていた。
ホテルに戻って、予約時に言っておいたベビーベッドを出してもらった。折り畳まれたベビーベッドを渡された。説明書もない。アメリカでは一般的な代物なのかもしれないけれども、アメリカ初心者の僕は途方に暮れた。
ホテルの人を呼んだ。おじいさんが来た。笑顔なんだけれども、とても乱暴にベビーベッドをガチャンガチャンとやっていた。どうやら、これが正しい組み立て方らしい。おじいさんがベビーベッドに暴行を働いて5分ほど、ベビーベッドはできなかった。次におじさんが来た。笑顔でベビーベッドを暴力的にガシャガシャ鳴らした、足で蹴った。ベビーベッドは壊れていたのか、壊れたのか分からないが、とにかく、使えないとのことだった。
その日も次の日も長女は一緒の布団で寝ることになった。
ホテルのロビーは快適で長女が遊ぶのにちょうどよかった。あと、付近のスーパーマッケットのパンや惣菜がとても美味しかったので、すっかり気に入ってしまった。
妻の仕事が終わり、長女をセサミストリートのテーマパークまで連れていくことになった。遠いので付近で一泊した。セサミプレイスについてはまた別に書くことにする。
泊まったホテルは有名なホテルの系列でとても綺麗だった。フィラデルフィアのスーパーマーケットで買ったお惣菜パンが絶品すぎたので、そこでもそれを食べていた。おすすめのスーパーマーケットなのに名前を覚えていない。なんとかブラザーズという名前だったと思う。
有名なホテルの系列店ではあったのだけれども、夜の23時くらいからロビーでパーティが始まった。0時くらいにロビーに行ってみたら、フロントの兄ちゃんとその友達らしき若者たちがパーティをしているようだった。
「小さい子供がいるから静かにしてくれないか?」
とお願いすると、笑いながらOKOKみたいになって、僕らのいるフロアの通路にある防火ドアを閉めた。そして、パーティは夜中の2時まで続いていた。パーティー文化の本場は怖い。
朝になって、朝食を食べに行くと、フロントに夜中の兄ちゃんがいた。マネージャーと書いてあるおばさんがいて、どうやら、親子のようだった。親の七光りか何か知らないけれども、こういうことか、となんだか妙に納得した。つまり、絶対、苦情を入れてやる!というつもりになった。僕はたまに変な正義感というか公平性を欠いたものに対して憤りを感じてしまうことがある。たまにそれで失敗する。
朝食は普通のアメリカの、例によって、どうでもいいような朝食。ワッフルを作るかどうか迷うけれども、面倒だからやらない感じの朝食。そうだ、フィラデルフィアのホテルでは、フィラデルフィアクリームチーズは食べ放題だった。ここではそうじゃなかった。フィリーに帰りたいと思った。
その日もセサミプレイスで遊んで、夕方くらいにフィラデルフィアに戻り、空港の近くのホテルに泊まった。
フロントは何度声をかけても振り向かないタイプの人。アメリカでは受付にこういうタイプの人がたまにいる。それはホテルでも病院でもどこでもいる。いやな予感がした。
部屋は自炊ができるようにミニキッチンがついていて、食器はフロントで借りるというものだった。フロントに電話すると、用意しておくから取りに来いということだった。取りに行っても、もちろん反応しない。僕はこういうとき壊れたおもちゃのように何度も声をかける。フロントの女性はイライラした感じで食器を持ってきた。
しかし考えてみると、食器があっても食べるものはない。フィラデルフィアのスーパーマーケットが恋しくなった。もう何年も経つのに、ブログを書いてまた思い出して恋しくなる。あそこはおいしかった。
ホテルから出て、WAWAというコンビニまで歩いた。遠かったし、アメリカのコンビニは、知っている人は知っている通りで期待することはできない。WAWAで色々買った。妻はこういうときに手の込んだものを注文するのがすごいと思う。
このホテルにはベビーベッドなんて最初からない。部屋は無駄に広いし、ベッドも三つもある。ベッドを壁側にくっつけて、もう一つつければ、長女が落ちることもないだろう。靴を脱がずに部屋を歩いていると、何やら違和感があった。調べてみると、釘のような針のようなとんがったものが何箇所か出ていた。
アメリカでは緊張感がないと怪我をする。フィラデルフィア旅行は大事なことを教えてくれた気がする。子供や妻の安全を確保するために、レンジャーになった気分で部屋を探るのは楽しかった。
日本であれば、ホテルのフロントに連絡してハンマーなりガムテープなり緩衝材なり借りるだろうけど、そもそも日本のホテルだったら床から釘のようなものが出ていることもないだろう。
アメリカのこういうところがなんだかんだと嫌いじゃない。