いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

出産初日に困る!(東京篇)<ばあばを出禁にしたいと思った>

「初日の招かれざる客」(長女2日目)

 

困ったことがあった。

 

産後は何かと忙しい。新生児を迎える準備も何が必要で何がいらないのかと、はじめてだらけのことだからバタバタとしてしまう。

 

長女が生まれた日、僕の母親が来た。母の住むところからはバスで最寄駅まで行って、そこから一回乗り換えがある。何度かうちまで来ているのに、毎回、途中の乗り換えで電話がかかってくる。

 

「向かいのホームに来る電車に乗り換えればいいから」

 

といって、電話を切った。妻から言われていた欲しいものを揃えたりしていると、また電話がある。

 

「あんた違うじゃない、おかしいと思って駅員さんに聞いたら、違う電車だったよ」

 

このようなやりとりはもう何十回としているので、反論する気も起きない。もちろん、前もって道順のメモも書いて渡してあるし、乗り換えの駅まで迎えに行って案内したこともある。妻が妊娠してからは、何があるか分からないからということで、うちの近くの駅のバス停だとどこに乗ればいいのかとか、タクシー乗り場も一緒に行って確認している。年も年だから仕方ないことかもしれないし、苛立つ僕の方の心が狭いのかもしれない。

 

しかし、産後1日目でこれだった。

 

僕が子供の頃、母が友人とコンサートか何かに出かけた。その帰りにどの電車に乗ればいいのか分からなくなって、駅員さんに尋ねたことがあるという。

 

「私たちどこに行くんでしたっけ?」

 

「それを聞かれても私には分かりません」

 

この駅員さんとのやりとりを当時は笑ったけれども、出産後のバタバタした1日目でやられると笑えない。正直なところ、もう少し落ち着いてから孫の顔を見に来て欲しかった。

 

母は、あれがやりたかった。病室で生まれたての新生児を抱っこして、妻にご苦労様とかなんとか気遣うような言葉をかけるばあばの役がやりたかったに違いない。母と何度か食事をした妻には母の奇行はとっくにバレているというのに。

 

妻の妊娠中、母が焼肉を食べたいと言ったことがあった。僕は母と外食するのがいやだった。どこにいってもお店の文句ばかりいう。昔からそうだった。

 

「一緒にご飯食べに行くなら、絶対、食事中にお店の文句を言わないでね」

 

そう言って母と焼肉を食べに行った。もちろん、妻には母の傾向は伝えていたので、多少のことは笑ってくれる。

 

「味噌ないの? 焼肉は味噌で食べたいのに、味噌がないの、この店は」

 

やっぱりはじまった。焼肉を味噌で食べたいのがいけないことじゃない。味噌で食べたいなら、味噌で食べられる店を探しただろう。僕は味噌でもタレでも塩でも肉がおいしければいい、それが焼肉の全てだと思っている。こうして楽しい外食の雰囲気を壊してしまうのが母だった。

 

「店の文句を言ったら、もう二度と、一緒に外食しないって言ったよね」

 

母には可愛いところがあって、そういうと、次は、そのお店を褒め始めた。先日も、「あの店に行きたい」とか言っていた。僕は嫌味のように「味噌ないよ」と言った。

 

以前から、外食のときにお店の文句を言う母に、僕も弟もやめて欲しいと頼んでいた。それでも母は文句を言い続けていた。なのに、この焼肉屋以降、外食先で文句を言わなくなった。弟にも情報共有していたので、感謝された。

 

そして、産後一日目に母が来た。

 

妻のいる病院まで電話での案内でたどりつき、病院の前で待ち合わせた。僕は出産に立ち会った興奮からかあまり眠れず、何度もダニ対策用の掃除機を部屋中にかけていたりしたせいで疲れていた。

 

「あんたが出産したみたいな顔しないでよ」

 

と疲れている僕の顔を見て、母なりの激励だと思うが答える元気もない。産後の妻に変なことだけは言わないでくれと、何度も念を押した。

 

「なんだか汚いわねえ、病院でとってくれないの?」

 

母が孫を見て言った最初の言葉はそれだった。やりやがったクソババァと思った。妻と目が合うと笑っていた。新生児にはこういう垢みたいなものがついているということを説明しなければならなかった。こいつ、もう出禁だと思った。

 

その後、母はとってつけたように妻を労っていた。そして、出生時の僕と長女の体重を比べて、どっちが軽いだの、僕が大きかったから大変だっただの、僕が生まれたときは出産している人が誰もいなくて、寒くて寂しい病院に一人しかいなくて、病院なのに猫がいていやだったという話をしていた。

 

「この子は意外となんでもやるから、こきつかいなさいよ」

 

と言って、病室を出た。妻にはまた来ると言って僕も出た。

 

「あんまり寝てないから、三時間くらい寝たいんだけど、母さんはどうする?」

 

「三時間くらいなら、この辺散歩して喫茶店でも行くから気にしなくていい。あんまり来ないところだから楽しみだわ」

 

とか言っていたので、うちの前まで道順を教えるために案内し、念のために付近の地図と住所を渡して、僕は寝た。

 

一時間後、信じられないようなインターホンの連打で起きた。母がいた。「あんた寝てたの?」つまりそういうことだった。うちに入れると、母は喋り続けた。しばらくして駅まで送り、僕は病院に行った。妻に話すと爆笑された。「お腹痛いからやめて!」と言われた。