いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

野菜の相場に困る!(主夫篇)<野菜の気持ちが分かることもある>

「野菜の値段はどうなっているのかな?」

 

困ったことがあった。

 

僕は値札をあまり見ずに買っていた。お金持ち発言みたいな感じになってしまった。スーパーマーケットの見慣れた食品の場合は、値札をあまり見なかったというだけで、靴や洋服屋などは値札から見てしまうことがあるくらいだ。欲しいと思って試着してから値札を見て諦めるのは悲しいから、高そうな服はまず値札を見る。そして値札をそっと戻す。

 

昔、探していた本を見つけたことがあった。見つけた喜びと緊張に震えながら箱から本を出し、値段を確認した。ぎりぎり財布にあるお金を全部出せば足りる。そのお金がなくなるとしばらく飲みにいけなくなる。そういうお金だ。

 

5回くらい飲みに行けないからなんだというのだ、と思って買おうと思った。レジに行く前に、高いとはいえ、想定していた値段の半額以下じゃないか? と思ってもう一度確認してみた。0を一つ見落としていた。本棚にそっと戻して飲みに行った。50回くらい飲みに行かなければ買えるわけなんだけど、5回我慢するのと50回我慢するのは違うと思った。

 

50回飲みに行った後に、50回飲んで少し体調も悪くなるくらいなら、その本を買っておけばよかったと思うのだから不思議だ。

 

値札を見るのは消費者としてはやらなければならないことなんだけれども、ときには値札を見たせいで未知なる出会いを遠ざけているのかもしれない。スーパーマーケットのステーキ用の和牛や天然うなぎなども値札を見ずに買ってしまえば、たとえレジでびっくりしながら買ったとしても、食べたらびっくりするくらいの幸福感に包まれるのかもしれない。

 

料理と買い出しを担当するようになってから、スーパーマーケットのありふれた野菜などの値札もチェックするようになった。できるだけ安くというのは当たり前かもしれないが、季節季節の相場を知るのも意外と楽しい。

 

「今年は葉物が高い」「今年は秋刀魚が安い」とかそんなワイドショーの話題についていけなかった僕でも数年続ければなんとなく相場が分かってくる。普段使いの野菜の値段を話題にして違いの分かる男として振る舞うこともある。

 

東京でもボストンでも、行きつけのスーパーマーケットは三カ所あった。売っているものが少し違ったし、値段も少し違う。そもそもが安いスーパーマーケットもあるし、セレブ用なのかなって値段の高級スーパーマーケットもある。安いスーパーマーケットなら、野菜の値段はそんなに変わらない。しかし気を抜いてはいけない、たまにご奉仕品とか特価みたいなものがあるからぼんやり買い物をするわけにもいかない。

 

それぞれのスーパーマーケットの相場が分かってきて、僕は主夫として一丁前になってきたんじゃないかと思うようになってきた。料理担当になって二年目に突入した頃、新しい職場で仕事を覚えてきてちょっと調子に乗るあたりだ。僕は調子に乗って、その季節の野菜の値段などを偉そうに妻に話したりしていた。

 

よく行くスーパーマーケットの帰り道に、いつも混んでいる八百屋さんがあった。違う八百屋で買ったときに、スーパーマーケットの方が安いと思ったことがあったので、そこもスルーしていたが、値札がふと目に入った。

 

すごい安い。

 

店の中に入ってみるとどれもこれも安かった。どういう原理でこんなに安いんだろう。にわか主夫の僕には理解できない世の中の仕組みがそこにあった。間に入る業者の数の違いとかそんなことで安くなっているんだろうと、家に着くまでにぼんやり考えていた。

 

24時間の警備の仕事をしていたときに、派遣先の人に「君には1日6万円払っているんだよ」と不満そうに言われたことがあった。僕が貰っていたのは三分の一以下だし、仕事の管理や装備品や交渉など警備会社がしているわけだから、1人の仕事で6万円が発生しているわけじゃないのは分かっているけれども、もう少し増やして欲しいと思った。警備業は独立して個人でやれないし、24時間労働とはいえ6万円そのまま貰えるわけじゃないのは分かりきっているけど、それでも労働意欲が低下する話だった。

 

野菜たちもそんな気持ちになっているんじゃないか? 鮮度(やる気)は大丈夫か? 僕はスーパーマーケットの野菜だった。

 

僕も八百屋の野菜だったら値札に文句を言われなかったかもしれない。安いのにおいしいって思われたかもしれない。安い値段がつけられるのが嫌というより、実際は安いのに高い値段にされているのは少し悲しい。もちろん、給料は高くして欲しかったけど。