いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

好物に困る!(再東京篇)<おすすめのチョコレートはラミーです>

バッカスかラミーかそれが問題だ」(長女3歳1ヶ月、双子1歳)

 

困ったことがあった。

 

僕は大の甘党で、昔から甘いものに目がなかった。とにかく甘ければなんでもいいという時期からその中でも好みが出てくるまでになった。

 

チョコレートは何よりも好き。和菓子のおいしさももちろん好きだし、餡子はこし餡に惹かれるけれども、たまには粒餡も食べたくなる。白餡もいいし、うぐいすだってもちろん好きだ。大福とチョコレートはいつも僕を悩ませた。悩むくらいなら両方とも食べればいいじゃないか、ということで、食べ過ぎて、きっと、パンも食べてケーキも食べればいいじゃないというような感じで食べ過ぎたから、糖尿病になったんだと思う。

 

冬の寒い日、厳しい風が吹きつける中で立っている仕事をしたことがあった。防寒着を着込んでも寒いし、カイロは靴の中まで入れているけれども寒い、仕事の性質上、周囲をうろつくわけにもいかないから、足踏みをしながら寒さに耐えるしかしない。こんなとき、アメリカだったらスキットルからウイスキーをあおり寒さを凌ぐのかもしれないが、日本の労働者は寒さが厳しくてもアルコールを一口だって飲むことは許されていない。

 

仕事中にアルコールを飲むと判断が鈍る、きっとそんなデータもあるんだろう。しかし、寒風が吹き付ける中を長時間、寒さに震えて立ち尽くしている者の判断は鈍らないのだろうか? 僕はふらふらとして、どうでもいいや、と思うことがあった。こんな目に合うくらいなら倒れてもいいや、と、寒さでつらくなるとそんなことを思ったりもする。

 

仕事終わりに同じ仕事の先輩に声をかけられた。

 

「寒いでしょう。ほら、これでも食べてよ」

 

ラミーを渡された。ラミーといっても、ボールペンなどで有名なLAMYではない。書きやすくて僕も気に入っているボールペンだけれども、仕事終わりにボールペンを渡されたら、それはただの仕事だ。仕事で何かの書類にサインを求められているだけだ。

 

先輩が差し出してきたのは、お口の恋人ロッテが冬季限定で出しているラミーだ。チョコレート中にラムレーズンが入っている。ラム酒で漬けているからアルコールも少しは入っている。たぶん、お子様は食べちゃいけないチョコレートだ。

 

チョコレートが好きだった僕でも、チョコレートボンボンはあまり食べようとしなかった。チョコはチョコ、お酒はお酒でやりたいものだと思っていたし、大福をつまみに日本酒を飲んでいた父と同様に、甘い物とお酒をやることには抵抗がなかったとはいえ、そして口の中では一緒になるし、胃の中では区別がつかないにしても、チョコレートボンボンには抵抗があった。

 

「これ、すごいおいしい!」

 

ラミーは奇跡の味だった。寒さに震えていたからか、寒さのことで頭がぼんやりしてしまっていたからか、または寒さで体がガチガチになっていたからか、そういえば、肩凝りになったのはこの仕事をしてからだったというのはさておき、ラミーが口の中で溶けて、ラムレーズンを奥歯ですりつぶして歯間にレーズンの皮が挟まることまで含めて、ラミーは最高だった。

 

「寒いからさ、仕事中にお酒飲むわけにはいかないから、これにしている」

 

「でも、これもアルコール入ってるなんじゃないですか?」

 

「このくらいならバレても見逃してくれるよ、寒すぎるし」

 

言われてみればそうかもしれない。仕事中にスキットルからウイスキーや焼酎を飲んでいたら嫌がる人は多いだろう。寒風の中に長時間止まる仕事をしたこともない人が注意してくるだろう。だけど、ラミーならどうだ。寒さを凌ぐために、寒さで奪われたエネルギーを摂取するために大の大人が寂しくラミーを食べていることを注意する人がいたら、注意する人を注意したくなる。

 

それから僕もラミーを携帯するようになった。問題なのは、ラミーが売り切れているときにバッカスを買ってしまったことだった。バッカステキーラが入っている。テキーラというと、テンガロンハットを被った人たちが「テキーラ!」と言いながら一息で飲み干している姿が浮かんでしまう。または夜の街で、テキーラを飲んで楽しんでいる人たちとかもいる。

 

僕のテキーラは寂しいテキーラだった。寒くて寒くて震えながらバッカスを頬張る。バッカスは粒状なので仕事しながら食べると落としてしまうことがある。手袋などをしていると、バッカスは不向きだ。だからバッカスは一気に口の中に入れてしまうことがある。バッカスは仕事中には不向きだと思った。スティック状になっているラミーこそが冬の現場仕事に適している。

 

その仕事はやめた。寒い冬には仕事が増えるのに、心地のいい夏の夜には仕事がない。予算やら何やらの関係で割高な深夜の仕事が夏までは敬遠されているというのもあるという事情も同じ給料で厳冬の中で働く者からしたら人をなんだと思ってるんだという感じがしたし、なぜか知らないが、家の近くの現場には行かせてもらえないのも変だと思った。「近い現場に派遣すると楽をして調子に乗る奴が多いから」という理由にも底意地の悪さを感じたというのもある。

 

そんないい思い出もなかった仕事だけれど、冬になるとラミーかバッカスが食べたくなった。そしてあの寒さの日々を思い出していた。現場仕事じゃないということでバッカスばかり食べるようになった。

 

アメリカに行くとバッカスもラミーもなかった。二年間我慢した。

 

日本に帰ってきて最初の冬、スーパーマーケットでバッカスとラミーに出会った。僕はスーパーマーケットに行く度に、バッカスを買っていた。糖尿病だからバッカスは1日三粒までと決めていた。

 

ある日、ラミーにしてみた。あの頃の思い出が鮮明に思い出された。先輩はどうしているだろう。あの寒さは誰を恨めばよかったのだろう。

 

そして今日もラミーを食べた。このところおかしいことがある。一個200円くらいはするラミーやバッカスだが、2022年は値上がりが激しい年でもあるのに、ラミーはどんどん値段が下がっている。薬局で168円かと思ったら、イオンでは158円、これで底値だと思ったら、なんと128円になった。今年はラミーの年だ。昨日は148円だった。ラミーの乱高下に一喜一憂している。

 

残念なのは、糖尿病のせいでラミーを1日に何個も食べられなくなっていることくらいだ。