「お酒を買うのは難しい」(長女6ヶ月)
困ったことがあった。
アメリカでは日本よりもお酒を買うのが難しい。難しいといっても、難しい問題を解かさせるとか物理的な障害物を超えていかなければならないというのではない。
ただ単に日本ほどその辺で売っているわけじゃないってくらい。スーパーマーケットでも扱っているところと扱っていないところがあるというくらい。都心に近づけば近づくほど、スーパーマーケットにお酒はない。
日本ならコンビニでもスーパーでもだいたいそれなりの規模のところは売っているから、ついついそんな感じで買おうとすると空振りすることがある。
慣れてくれば、行きつけの酒屋ができてそこで買うことになる。思い出してみると、僕が行くようになった酒屋さんは2軒ともインド系の人がやっているお店だった。ビールといえば、IPA(India Pale Ale)が基本になっているアメリカだとインド人が売る方が美味しい感じがするとかあるのかもしれない。
行きつけの酒屋ができる前、とくに来たばかりの頃は戸惑うことも多かった。近所のミニマーケットでは日本のコンビニのように普通に買うことができるけれども、種類も限られるし、なんだか少し高い気もした。
ボストン郊外モールデンのスーパーマーケットStop&Shopは郊外ということもあり、大型店舗だった。中に酒屋が入っていて、別会計になっている。カウンターには背の高い女性がいた。小さな人参をぽりぽり食べている。生なのか茹でたものなのか気になったけれども、聞くことはなかった。
「身分証の提示をお願いします」
日本でいうところの年齢確認だ。日本のコンビニだとレジに「20歳以上ですか?」みたいなのが出てYESと押せば済む、昔は口頭で聞かれた気がする。僕が子供の頃はそんなことは聞かれなかったと思う。よく子供の頃に父親の酒やタバコを買いに行ったものだ。
子供にとって親のタバコを買うというのはお小遣いを手に入れるチャンスでもあった。お釣りがお駄賃になる。当時、タバコは、一箱150円とか160円だった気がする。200円渡されて、お釣りがお駄賃。値上がりして180円になったときにはお駄賃は半減。父の友人にタバコを買いに行かされたときに、ちょうどの金額を渡してきたので文句を言ったことがある。文句を言ったら100円もらえたので大儲けだった。
父のタバコが200円に値上がりした。その頃から僕はおつかいに行かなくなった。日本で年齢認証が厳しくなったのは、そのあたりからなのかそれは覚えていない。
日本で年齢を聞かれるときは、年齢認証が厳しくなったときはマニュアル対応で行っているということもあり、すべての人に聞いていたと思うけれども、あるときからは口頭で聞かれることはなくなった。20歳になっているかどうかギリギリだなって思われると聞かれるくらいだと思う。居酒屋などでも20歳超えたあたりで年齢認証が徹底かされたのか、身分証の提示を求められるようになった。
おっさんになって年齢を聞かれることはなくなったし、年齢確認のために身分証の提示を求められることもない。
アメリカに来てから、アルコールを買うときには年齢を聞かれるようになった。マニュアル対応だから仕方ないと思っていた。アルコールを買うときには、パスポートを持つようにしていた。人によってはアルコールIDを作ったりしているらしい。
はじめてStop&Shop内の酒屋を利用したとき、そういったことを知らず、日本の感覚で買おうとしていた。年齢が書かれている身分証がなかった。国際免許証を出すと、それはなんだ? と言われてしまい通用しないみたいだった。
「これでも40歳超えているんだけどなあ」
「え? ほんと?」
お姉さんが驚いていた。年齢認証はマニュアル対応ってだけじゃなく、僕はギリギリの人に見られていたらしい。アジア人は若く見られるとよく聞くけれども、40歳を超えたおっさんになって20歳ギリギリに間違えられるのは新鮮だ。
責任者らしいおばさんが出てきた。国際免許証と僕の自称40歳おっさんのアジア人ということを認めてくれてどうにかビールを買うことができた。
「40歳かー」
と、背の高いお姉さんがつぶやいていた。