いつも困っている

家事と育児(三人姉妹で二人は双子)に対峙する男の日々

奥歯に困る!(東京篇)<無愛想な歯医者さんと歯を磨かない患者>

「奥歯の違和感」(長女1ヶ月)

 

僕はあまり歯を磨かない。眠る前に口の中がスースーしていると気になって眠れないから夜は磨かないし、日中は口の中がスースーしている状態で何かを食べると気持ち悪いから磨かない。

 

寝る前に甘いものを食べたときは布団の中でも甘いものを食べた気持ちになれるから、歯磨きをするのは悲しいことだと思っている。口の中に残る甘味はさながらお土産のようだし、ご飯だったらお弁当だ。

 

歯を磨かない話をすると、優しい人は虫歯の心配をしてくれる。基本的には気持ち悪いって言われる。

 

もちろん虫歯になる。そして定期的に歯医者さんに通うことになる。2年に一度くらいの頻度で歯医者に行くようにしている。

 

「どこか痛いところがありますか?」

 

「あまり歯を磨かないので、2年に一度、全部見てもらって、悪いところはすべて直して欲しいと思っています」

 

微笑んでくれる歯医者さんもいる。そうでない歯医者さんの方が多い。考えてみて欲しい、二年間毎日、朝と夜と歯を磨いて、スースーした気持ちになるばかりでなく、歯磨きに10分くらいかけるわけだから、毎日20分。3日で一時間くらい歯磨きしていることになる。30日なら10時間だし、一年で120時間ほどになる。2年なら倍で240時間。そんなにやっても虫歯になることがある。

 

2年に一度歯医者に通えば、一、二ヶ月かかるにしても数時間。

 

時間の節約とかそういうことが言いたいわけじゃないけど、毎日の習慣に押しつぶされそうな僕にとっては、やらないで済むのであればやりたくない。習慣としてやりだすと大変なことになってしまう。歯磨きまでこだわりはじめて厳密なルールに従わなければならない。そうなるとこじらせてしまって、何かを口にしたらすぐ歯磨きみたいになるに決まっている。僕にはそういういささか病的な部分があることは自覚している。

 

奥歯に違和感があった。虫歯でもないし、歯ぎしりもしていない。奥歯とその下の歯茎が痛いような気がした。このままアメリカに行ってしまうと、アメリカは歯医者が高いとか質が良くないとか聞くものだから不安だった。でも、歯医者は数ヶ月前に行ったばかりで、僕の習慣としては歯医者に行くのはまだ先の予定だった。なにより最後の予約日をすっぽかしてしまって少し気まずかった。

 

「歯医者に行きなさい」

 

妻から言われて予約した。通っていた歯医者は以前住んでいたところの近くで、とても無愛想で、BGMが嫌いな音楽だった。はじめて行ったときにはハズレだと思った。しかし、その歯医者さんはとても丁寧で親切で、笑顔一つ見せないけれども、長年調子が悪かった部分も直してくれたりして、僕の中では名医だった。

 

「この治療、おかしいですね。神経取る必要ないところまで取っちゃってますね。あと、この部分は保険適用内なのになぜ銀歯なんですか?」

 

それまでの治療の不具合をすべて直してくれた。無愛想だし、音楽の趣味が合わないけれども、素敵な歯医者さん。

 

前回、すっぽかしてしまったことを謝ると、とくに返事がない。奥歯の具合が悪いと伝えていたので、口を開けて見てもらった。

 

「歯に問題はないですが、最近、硬いものを噛んだり、食いしばったりしたことがありますか?」

 

心当たりがあった。出産だ。僕が産んだわけじゃないんだけど、妻が力んでいるのにつられて僕も力んでいた。歯を食いしばり、体はガチガチになっていた。

 

「妻が出産したときに思いっきり歯を食いしばったかもしれません」

 

「おめでとうございます。原因はそれだと思います」

 

無愛想な歯医者さんが笑った。すぐにいつもの無愛想な表情に戻った。奥歯の違和感は放置していれば治るとのことだった。私の歯磨き習慣も知っている歯医者さんなので、二年間アメリカに行くことを伝えた。

 

「二年間は大丈夫だと思いますよ」

 

3年ちょっとして虫歯になった。いつもガラガラな歯医者さんだけれども、あそこまで素晴らしい歯医者さんにはなかなか出会えない。その歯医者さんは新しい機材を使うのが好きみたいで、使ってみてもいいか聞いてくることがあった。そういうときは少し嬉しそうだった。僕も実験されているみたいで楽しかった。